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【識者の眼】「陰性感情をどう取り扱うか」西 智弘

No.5056 (2021年03月20日発行) P.60

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2021-03-03

最終更新日: 2021-03-03

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2021年2月、森喜朗元首相が女性蔑視発言を問題視され、オリンピック組織委員会会長職を辞任することが報道された。この発言内容自体は、女性の社会参画を妨げると解釈される意味で容認されるべきものではなく、このことによってオリンピック運営に支障をきたす結果になるということであれば、辞任は妥当な方針であったと考えられる。

しかし、この発言自体が問題視されることと並行してSNSやメディアなどを中心に大きく取り上げられたのは「老害」などと年齢的属性への批判であったり、「森さんの認識の問題」と個人の問題に矮小化してしまう言説などであった。

今回の件から私たち医療者が学べることのひとつは、「問題は何なのか」という本質を明確にしていこうとする姿勢ではないかと考える。

例えば、がんにまつわる様々な問題の中で「代替療法」や「反医療」に関する現場の混乱がある。HPVワクチン接種の拒否や、手術や抗がん剤など標準治療の拒否、そしてオピオイドすらも拒否して、疼痛や不安などに苦しみながらも、私たちから見れば荒唐無稽な「〇〇療法」に傾倒していく……。このような患者や、またそれを推奨する「治療者」は、がん診療以外にも様々な領域で問題になっていると思われるが、私たち標準治療側はその存在や行動を全否定する言動をついつい取っていないだろうか。一度でもそういう代替療法に傾倒した患者やその家族について診療を拒否する、または「苦しむのは自業自得」などと。しかし、このような陰性感情は私たちがプロであるならば本来コントロールすべきものだと思う。代替療法は科学的検証に耐えうるのか? またそれを選択することでどのような利益、そして不利益があるかなど、あくまでも科学的視点から冷静に見つめるものではないだろうか。批判の対象はその「治療法」そのものであり、それを扱った人間という人格ではないということである。

個々人の人格・属性についての批判は、分断を深くする。それは多くの場合、双方にとって良い結果を生まないことが多いものだ。

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[科学的視点]

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