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【識者の眼】「日本の皆保険制度を維持するために(2)費用対効果分析とは?」神田善伸

No.5058 (2021年04月03日発行) P.60

神田善伸 (自治医科大学附属病院血液科教授)

登録日: 2021-03-09

最終更新日: 2021-03-09

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本連載第1回(No.5054)では悪性腫瘍領域での医療費の高騰について紹介させていただいた。幸いにも国民皆保険制度と高額療養費制度が整っている日本では患者自己負担額は一定の金額以内に抑制される。また、経営難の改善策として各診療科の稼動額を院内公表する病院もあり、高額な治療を行う推進力となっている様子もみられる(医薬品材料費も上昇するので収益の改善にはつながらないのだが)。

一方、高額な薬剤が予後を大幅に改善するとは限らない。アメリカ統計協会の P値に関する声明でも示されたように、P値や統計学的有意性は効果の大きさや重要性を示すものではないが、この声明から数年が経過した今でもP値は重要視されている。そのため、医薬品開発において膨大な症例数の臨床試験を実施すれば、臨床的な効果が小さくても統計学的な有意差が示される確率は高まり、新薬が市場に投入されてしまう。そこで、薬価が効果の大きさと比して適切であるかどうかの検証、費用対効果分析も重要となる。定量的な指標として増分費用効果比(incremental cost-effectiveness ratio:ICER)が用いられる。これは、治療の上乗せ費用(増分費用)を、治療による上乗せ効果(増分効果)で割った値である。効果の大きさは、QOLで補正した生存年(quality-adjusted life years:QALY)で表すことが多い。例えば300万円の増分費用でQALYが6カ月延長したとしたらICERはQALY 1年あたり600万円という計算になる。

日本では革新性が高く、財政影響が大きい医薬品・医療機器を対象として、保険収載後に企業がICERを算出し、その結果を専門組織が再分析する試みが始まっている。英国は分析結果を保険償還の可否判断に用いるが、我が国は価格調整に用いるので診療現場への影響は比較的小さい。また、極端な価格調整は企業の開発への影響や患者のアクセス制限につながるおそれがあるので、稀少疾患等に対する配慮が行われる。ICERの基準は英国では£2万〜3万/QALY(日本円で300〜450万円)が閾値とされており、我が国も500万円/QALYを目安に薬価の調整が行われる予定である。次回はICERの計算について、私たちが実際に行った解析を紹介しながら、考えてみたい。

神田善伸(自治医科大学附属病院血液科教授)[高額薬剤]

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