先日、東日本大震災から10年目を迎えましたが、栃木県で起きたクレーン車による死傷事故からも10年が過ぎようとしています。
クレーン車の運転者がてんかん発作を起こし、集団登校中の小学生の列に突っ込み6人が死亡しました。運転者はてんかんに罹患していましたが、アドヒアランスは不良で、かつ、前日も深夜まで起きていたとのことです。この事故を契機に、疾患の管理が不良である人が事故を起こした際に、厳罰に処すべきという世論が高まり、道路交通法(以下、道交法)が改正されました。
2014年に自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律が施行され、てんかんなどの一定の疾患に起因した死傷事故について、要件を満たせば故意犯である危険運転致死傷罪が適用されることになりました。さらに道交法が改正され、免許の取得・更新時に提出する病気等に関する質問票(意識消失を起こしたことがあるか、医師から自動車の運転をやめるように言われているかなどの質問票)に回答することが義務化され、虚偽の回答をした際には罰則が科せられることになりました。また、医師による公安委員会への任意届け出についても規定されました。
これらの厳罰化は、てんかんを始めとした、疾患に起因する事故を減らすことを目的としています。昨今の刑事裁判においても、疾患の管理をおろそかにしたことによって生じた交通事故は、偶発的に生じる交通事故よりも過失が大きいという司法判断になっています。
このような法の改正によって、まず、免許の取り消し例が増加しました。2013年には、てんかん患者における免許の取り消しが788例でしたが、改正法施行の翌年である2015年には3028例と著しく増加しました。
次に、法の改正前後で刑事裁判の判決を比較してみました。当然のことですが、改正前は過失運転致死傷罪で起訴されていましたが、改正後はほとんどの例で危険運転致死傷罪となっていました。そして、判決の量刑ですが、改正前に比べて懲役刑が約2年長くなっていました。このように、法改正後は量刑が重く、厳しい判断が下されていました。
てんかんに起因した交通事故件数ですが、改正法施行前の2010年~2013年には255件発生していました。法改正後の2015年~2018年では276件と、減少どころかわずかに増加していました。すなわち、法律を厳罰化し、免許の取り消し例が増加しても、事故は減っていませんでした。いまだに、てんかんに対する管理が不十分で、かつ、危険性を認識せずに運転している人がいるということです。
法改正の最も大きな目的は、てんかん発作に起因した事故を減らすことですが、その目的を達成していません。このような事故を減らすには、私たち医療従事者が患者に対して、疾患管理の重要性と事故の危険性を啓発していくしかないのではないでしょうか。事故から10年目に痛感しました。