「亡くなったはずのお婆ちゃんが立っている」とか「海の中から沢山の眼がこっちを見ている」という声が,被災地においてコッソリと聞こえ出したのは,東日本大震災のあった2011年の夏頃からである。こうした「幽霊話」を患者が相談してきた場合,読者のみなさんはどのように対応するであろうか。筆者はそのような経験のある医師との出会いはないが,他方で幽霊と対面した人々の中には,医師には話さないが宗教者には相談する,という人も多い。幽霊の存在を前提とした話に医師は取り合わないが,宗教者なら応えてくれるからである。宗教の教えには,救いは死後世界でもたらされるという「現世拒否」の思想を持つものが多く,宗教者が死後世界のメッセンジャーとなることはめずらしくはない。
阪神・淡路大震災時と比較して,東日本大震災では宗教者の支援活動が目につく。前者が起こった1995年は,オウム真理教に疑惑の眼が向けられたため社会は宗教全般に冷たく,宗教団体の活動は極力控えめに行わざるをえなかった。しかし,東日本大震災では違った。雪の舞う被災地の瓦礫の中で読経する僧侶の姿が新聞に大きく取り上げられたように,宗教者たちは宗教者ならではの活動を積極的に行っていたのである。
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