著: | 宮内倫也(名古屋大学大学院・精神科医) |
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判型: | A5判 |
頁数: | 352頁 |
装丁: | 単色 |
発行日: | 2016年03月24日 |
ISBN: | 978-4-7849-4532-0 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
精神科以外の先生方に贈る “精神科診療のエッセンス”
■ メンタルな患者さんにどう接したらいいの?
「抑うつ」「不安」「身体化」を訴える患者さんが増えています。そのような患者さんは、本書で紹介する“ちょっとした精神療法”で軽快していくことが多いのです。
■ 向精神薬はどう使えばいいの?
頻用薬の特徴と注意点をまとめ、プライマリケアでの適切な使い方を示しました。
■ 「認知症」や「せん妄」はどこまで診るべき?
間違いのない初期対応を行うためには診立てが肝腎。プライマリケアで実践できる症候の診かたを伝授します。
第1章 メンタルな患者さんとの接し方
現象としてのこころ
身体疾患と精神疾患のクロストーク
症状には意味がある
症状との関わり方
精神療法の基本
孤立を緩和すること
限界突破のためのプチ工夫
技術としてのやさしさ
言葉と診断基準
なぞって繰り返す、言葉にまとわせる
BATHE techniqueを使う
養生しましょう
精神療法っぽい何か
問題解決のステップ
身体からのアプローチ
第2章 プライマリケアで使われる精神科の薬
薬は“仮説”でできている
抗うつ薬の基礎知識
抗うつ効果はどんぐりの背比べ
薬物相互作用には個性あり
副作用にも個性あり
その他の副作用
セロトニン症候群と悪性症候群
中断症状に要注意!
小児・妊婦への抗うつ薬
抗不安薬・睡眠薬の基礎知識
ベンゾジアゼピンの作用機序
ベンゾジアゼピンの種類と注意点
ベンゾジアゼピンを使う
ベンゾジアゼピンをやめる
その他の抗不安薬;タンドスピロン
その他の睡眠薬;ラメルテオン
その他の睡眠薬;スボレキサント
抗認知症薬の基礎知識
コリンとグルタミン酸をねらえ
抗認知症薬の原則と副作用
抗精神病薬の基礎知識
抗精神病薬の顔つきを知る
死亡リスク上昇という副作用
中断症状を過小評価しない
リチウム
プレガバリン
スルピリド
アミトリプチリン
向精神薬と運転
向精神薬のまとめ
第3章 プライマリケアで診る症状、診ない症状
まずは身体疾患を除外する
身体疾患かどうか?
精神症状を呈する身体疾患の例
早めにラベルを貼る?
レーダーチャートで症状の軸を捉える
① 不安/恐怖の方向
② 行動化の方向
③ 抑うつ/躁の方向
④ 関係づけの方向
⑤ 身体化の方向
⑥ 解離の方向
診ない症状と重症度を考える
人格構造の視点を加える
境界性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害
発達障害は症状を曖昧化させる
スクリーニングのポイント
① 統合失調症
② 双極性障害
③ 解離症(解離性障害)、PTSD
④ 明確な希死念慮・自殺企図
⑤ 焦燥感を含む中等度?重度の症状
⑥ 摂食障害や物質依存を含む行動化
⑦ パーソナリティ障害疑い
第4章 抑うつ・不安・身体化
抑うつの診かた
抑うつの薬物療法
抑うつの精神療法
治療の過程で気を付けること
高齢者のうつ病
抑うつを精神科に紹介する
若者の“新型うつ”
不安の診かた
不安の薬物療法
不安の精神療法
不安を精神科に紹介する
身体化の診かた
身体化を呈する患者さんへの接し方
身体の痛みはこころの痛み
身体化の薬物療法
身体化を精神科に紹介する
不眠の診かた
睡眠時無呼吸症候群
むずむず脚症候群
純粋な不眠を考える
第5章 認知症・せん妄・発達障害
認知症の診かた
MCIとは?
認知症のスペクトラムを理解する
神経症候の有無を確認する
レビー小体型認知症:DLB
前頭側頭葉変性症:FTLD
PSPとCBD
アルツハイマー型認知症:AD
てんかんとの鑑別に注意
BPSDの薬物療法
せん妄の診かた
せん妄をどうやって評価するか?
せん妄の機序から予防を考える
せん妄の治療
発達障害の診かた
発達障害の三つ組と感覚過敏
発達障害のために曖昧化した症状の例
グレーゾーンが白になるよう支援する
附録: 肩肘張らない参考書
現代社会では、精神症状を訴える患者さんが少なくありません。軽症であればプライマリケアを訪れることも多いでしょう。本書は、そのような患者さんにどうやって接していけば良いかを考えていくためにあります。
メンタルクリニックや精神病院と異なり、プライマリケアでは患者さん自身が不調を感じ、患者さん自身の判断で医療機関を訪れます。ところが、その中に意外な精神疾患が隠れていることもままあるため、守備範囲外の症状を適切に拾い上げて“診ない”スキルが大切になってきます。本書はそこに重点を置き、“診ない症状”の説明に多くのページを割きました。
プライマリケアで診るべき精神症状は、実はそう多くありません。そして、診るべき症状は医療者のちょっとした配慮で軽快していくものだ、ということを強調しました。それを実際の診療で実感してもらえたら、とても嬉しいです。
第1章は総論に当たり、やや文系的な感じがするかもしれません。しかし、これこそ精神症状を診るにあたって必要な知識だと思いますし、身体疾患の患者さんに接するときにも役立ってくれると思います。少しずつで良いので読み進めてみてください。
第2章は薬剤の使い方を述べています。薬剤は、“どう使うか”だけでなく、
“どう使わないか”が大切です。それを知るためには、まず薬剤そのものの性格を知るところから始めましょう。そして、患者さんの“あわい(人と人との間)”を考慮すると、使う/使わないのラインは患者さんによって、また同じ患者さんでも状況によって、かなり揺れることが分かります。それを抜きにして薬剤を語るのは、思考停止と言わざるを得ません。
第3章以降は精神症状の診かたについてです。パーソナリティや発達についても述べているので、突っ込んだ内容に思われるかもしれませんが、パーソナリティ障害を診断するためや、成人の発達障害を診断するためではありません。この2者は精神科医ですら診断が難しく、それをプライマリケアに求めるのは無理難題というもの。診断はせずに「それっぽさ」の雰囲気を感じとることが重要であり、そのための知識として述べました。
巻末には難しくない参考書を挙げました。本書のみではカバーしきれないところが多々あるため、それらを読んで診療に役立ててみましょう。
全体として、患者さんと周囲の人たちが豊かな“あわい”で生きていけるように応援することを目標にしています。プライマリケアはそれに取り組むことのできる最前線であり、醍醐味にもなるでしょう。この本が先生方の診療に少しでも役立ってくれれば幸いです。
最後に、これまで出会った患者さんたち、前著に続き出版まで粘り強く関わってくださった日本医事新報社の方々、医学発展のために犠牲になった実験動物たち、仕事をセーブして寝てばかりの私を「論文書け」「働け」と言いながらも眺めてくれている家族に大感謝です。
2016年2月 宮内倫也