編集: | 伊豫雅臣(千葉大学教授(精神医学)) |
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編集: | 齋藤 繁(群馬大学教授(麻酔神経科学)) |
編集: | 清水栄司(千葉大学教授(認知行動生理学)) |
判型: | A5判 |
頁数: | 162頁 |
装丁: | 単色 |
発行日: | 2016年02月02日 |
ISBN: | 978-4-7849-4527-6 |
版数: | 第1版 |
付録: | - |
■ 難治性疼痛の診療に携わる各科の先生方のために、認知行動療法の基本的な考え方を紹介した入門書です。
診療科: | 医学一般 | 心理学 |
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麻酔・ペインクリニック | 麻酔・ペインクリニック |
第1章 認知行動療法とは
第2章 痛みの理論と治療アプローチ
第3章 ケーススタディ
(1)専門外来
[症例1]追突事故後遷延する慢性痛
[症例2]ドクターショッピングを繰り返した慢性頭痛
[症例3]胃腸の不調に伴って発症した全身の痛み
[症例4]長年続く口中と腕の痛み
[症例5]前立腺癌術後の鼠径部痛
(2)入院症例
[症例1]脊髄腫瘍術後の慢性腰痛
[症例2]ステロイド治療をきっかけに発症した全身の痛み
(3)一般外来
[症例] 神経ブロックが奏効しない両足底部の痛み
(4)グループ療法
認知行動療法を取り入れたグループ療法「慢性痛リハビリ」の実際
[症例1]乳癌術後の肩痛
[症例2]慢性膵炎を契機に出現した全身の痛み
本邦での大規模調査(服部政治ら、2004)によると、慢性疼痛の保有率は13.4%で、うち約70%の人たちは病院や医院を受診した経験があるが、満足のいく程度に痛みがやわらいだと答えたのは22.4%に過ぎず、半数以上の人は通院をやめてしまったということです。
疼痛は人の行動に大きく影響します。それが常時かつ長期に続く慢性疼痛は、日常生活や社会生活、対人関係など様々なところに負の影響をもたらします。このように重大な結果を引き起こすにも関わらず、検査ではっきりとした異常所見が出ないことも多く、有効な治療法も少ないため、多くの医師は「よくわからない厄介なもの」と考えてしまいがちです。専門外の疾患であり、身体的異常もはっきりしないので、患者が精神的に作り出しているものと考え、精神科に紹介して終了、となることも多いようです。
その一方で患者さんは、この医者にはわからない病気にかかっているとか、何か重大な病気が見逃されていると思い、ドクターショッピングに至ってしまいます。見捨てられた、嘘をついていると誤解された、と落ち込んでしまうこともあります。
米国では2000年に入り「痛みの10年」として疼痛のメカニズムの解明や新しい治療法の開発が精力的に行われました。その結果、疼痛の程度は注意や気分に大きく影響されることがわかってきました。また疼痛への恐怖が行動を制限し、そのために日常生活に支障が生じるのに加えて、できなくなったことで否定的に考えてしまい、気分も落ち込むという「疼痛と思考、行動、感情の関係」もわかってきました。このようなことは、慢性疼痛でなくともよく経験することと思います。
この関係に直接アプローチする治療法が、この本で紹介する認知行動療法です。認知行動療法は、疼痛への恐怖に少しずつチャレンジし、また考え方を修正することによって気分を改善し、疼痛の軽減とともに気分や行動を改善させるというものです。治療者は、「誰でも経験するような注意や気分と疼痛の関係」として慢性疼痛を理解することにより、慢性疼痛を有する人たちの苦悩も理解できるようになると思います。
この本は、疼痛に関わる様々な診療科の方々に、慢性疼痛の機序と治療について理解していただくため、そして患者さんの生活の質を高めていただくために編集されました。第1章で認知行動療法の基本的な考え方を概説し、第2章で認知行動療法的な慢性疼痛の捉え方と治療法について述べます。第3章では様々なタイプの慢性疼痛とその認知行動療法的アプローチを具体的に理解していただくために、専門外来、入院治療、一般外来、グループ療法と様々な場面でのケースを紹介します。
本邦における認知行動療法のリーダーである千葉大学の清水栄司先生と、慢性疼痛への認知行動療法のグループ療法を先駆的に実践している廣木忠直先生・齋藤繁先生と群馬大学・慶友整形外科病院合同チームにも執筆していただきました。この場を借りてお礼申し上げます。是非多くの医療従事者に目を通していただき、慢性疼痛を有する方々の治療に役立てていただきたいと思います。最後にこの企画を提案し、推進してくださった日本医事新報社の編集部にも心よりお礼申し上げます。
平成27年12月
千葉大学大学院医学研究院精神医学 伊豫雅臣