No.5073 (2021年07月17日発行) P.56
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科副医長)
登録日: 2021-06-29
最終更新日: 2021-06-29
新型コロナウイルスのワクチンは日本でも急速に普及し、接種回数4000万回、1回目接種者は日本人口の21%に到達しました(2021年6月27日現在)。欧米を中心に、妊娠中のワクチン接種について安全性のデータが蓄積されてきました。妊娠中や授乳中にワクチン接種すると、胎盤や母乳中に抗体が移行し、胎児や新生児が新型コロナの感染から守られる可能性が報告されました(Collier AY,et al:JAMA.2021;325(23):2370-80, Gray KJ, et al:AJOG.2021 Mar 26:S0002-9378.)。今回は、妊娠中、妊活中の方と現在日本で使用されているmRNAワクチン(ファイザー社、モデルナ社)に関する最新情報(6月27日現在)をご紹介します。
6月17日に日本産科婦人科学会と関連2学会より、妊娠中でもワクチン接種できるという通知が重ねて出されました。新しい通知では、以前まであった「妊娠12週までは接種を避ける」「ワクチン接種前後に胎児の心拍確認を行う」という記載はなくなりました。これにより、妊娠初期を含めて新型コロナのワクチン接種は大きな問題がなく、妊娠中も大規模接種会場等でも接種できるようになりました。また、接種後の副反応(接種部位の痛みや発熱)に対してはアセトアミノフェンを使用できることが記載されています1)。
同じ日に、米国からNEJMに論文が発表され、妊娠中にmRNAワクチンを接種した3万6000人(ファイザー53.9%、モデルナ46.1%)の解析では、妊娠していない女性と比べて副反応に有意差はないこと、出産まで至った827人の解析では周産期合併症の有意な上昇を認めないことが報告されています(Shimabukuro TT,et al:N Engl J Med.2021;384(24):2273-82.)。米国CDCのv-safeでは、6月14日時点で12万人の女性がワクチン接種時または接種直前に妊娠しており、携帯アプリを使用してデータ集積が継続されています。
mRNAワクチンで不妊症になるという報告はなく、日本産科婦人科学会・米国産婦人科学会では、妊活中の方にもワクチン接種を推奨しています。1回目接種後に妊娠が判明した場合、2回目の接種を延期する必要はなく、予定どおり接種できます。ワクチン接種前に妊娠検査は不要です。不妊治療中の35人のワクチン接種後の妊娠率を調べた研究では、凍結融解胚移植の受精・妊娠率は低下せず、同等であったと報告されています(Randy S Morris F&S Reports June 2021)。
【文献】
1)日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会、日本産婦人科感染症学会:新型コロナウイルス(メッセンジャーRNA)ワクチンについて(2021年 6月17日)
[http://jsidog.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=114274]
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科副医長)[新型コロナウイルス感染症]