No.5093 (2021年12月04日発行) P.59
宮坂信之 (東京医科歯科大学名誉教授)
登録日: 2021-11-23
最終更新日: 2021-11-22
医療過誤が疑われる場合には、よく「確認不足」の言葉が用いられる。しかし、残念ながら「見落とし」と呼ぶのが適切かも知れない。
電子カルテでは「確認不足」事故を防止するために工夫がされている。カルテの問題志向システム(Problem-oriented system:POS)の採用もその1つである。患者のProblem listsを作成し、それごとにSOAP(S:subjective;自覚症状、O:objective;他覚所見、A:assessment;評価、P:plan;計画)を順番に書いていく。
本来は、POSシステムは臨床の基本である。しかし、内科はともかく、外科はまずメスの切れ味ばかりを問題にし、詳細なカルテの記入を怠る傾向がなきにしもあらず、である。また、マイナーな診療科は概してProblem listsの作成が不得意である。研修医のときにPOSシステムの書き方を習う必要があるが、完全に臨床に浸透しているとは言えない。医療関係者が忙しいのは1つの理由であるが、それを言い訳にはできない。
もしもPOSシステムを採用していなかった場合や、Problem listsの作成が不十分な場合にも「確認不足」が起こりうる。主治医が臨床上の問題点として認識していないからである。しかし、これがきちんとできないようでは嘆かわしい。POSシステムを採用していても、主治医が思い込み、第三者が参加をしないと、「確認不足」が起こることがある。最近、某大学で乳癌の全摘術を左右間違えて行った例が報告された。この例では、主治医の思い込みにより、カルテにも報告書にも左右が間違って記入されていた。しかも、この件に関わっていたのは主治医のみであり、第三者は不在であった。もしも第三者が診断や治療に関わっていたとすれば、「確認不足」は防げたかも知れない。
「確認不足」というのは医療関係者の主観的な見方である。患者にとっては「見落とし」と言わざるをえない。
宮坂信之(東京医科歯科大学名誉教授)[医療過誤][POSシステム]