No.5098 (2022年01月08日発行) P.63
川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)
登録日: 2021-12-10
最終更新日: 2021-12-10
先日、米国のマイクロソフト社の株主総会において、セクハラや性差別に関する調査結果の公表を求める株主提案が可決されたという報道がありました。いわゆる「物言う株主」の提案が可決されたという珍しいパターンです。もちろん、創業者ビル・ゲイツ氏の過去の女性問題が発端ではありますが、それだけハラスメントに対する企業の責任が問われていることの現れと言えます(株主にとっては、株価の下落を抑えるという視点も重要かもしれませんが)。
日本においても、2019年にいわゆるパワハラ防止法が成立し、ますますその傾向は強くなっています。SNS等で情報が瞬く間に拡散される昨今において、ハラスメント対応の誤りは、レピュテーションリスク(評判が悪化するリスク)がきわめて高い状況です。それだけではなく、ハラスメント被害者が加害者に対してだけではなく、雇用側に対しても、安全配慮義務が尽くされていないことを理由に、損害賠償請求の裁判を起こすケースも増えています。
一方で、ハラスメントの被害申告があった場合、その調査について困難を伴うことも少なくありません。録音・録画などがある場合はきわめて稀で、ほとんどのケースが「当事者の証言しかない」という状況に陥りがちです。このような場合、関係者に対する慎重なヒアリングが求められます。前後の事実関係と整合性があるか、証言内容に変遷がないか、当事者の行動に合理性があるか、などといった要素を多面的に判断することが必要になります。
また、ハラスメントの事実が確認できたとして、加害者に対してどのような処遇を行うかという点にも難しさがあります。即座に懲戒解雇という手段を選びたくなりますが、後日裁判で「ハラスメントの事実があったとしても、懲戒解雇まではいきすぎであり、解雇は無効」と判断されるケースもあるためです。ハラスメントの程度や頻度はどのようなものか、注意や指導を経ているか、弁解の機会を与えているか、などといった手続面についても判断要素になる点は注意が必要です。
このように、ハラスメント事案が生じてしまうと、その対応にはかなりのリソースがとられてしまいます。レピュテーションリスクや離職等のリスクも考えると事前の予防がきわめて重要になってきます。ハラスメント予防や発生時の調査等について、専門家のアドバイスも取り入れつつ、危機管理の一環という意識を持って対応していくことが必要です。
川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]