No.5107 (2022年03月12日発行) P.57
小倉和也 (NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)
登録日: 2022-03-03
最終更新日: 2022-03-03
コロナ禍の中、ロシアによる侵攻が現実のものとなったウクライナでは、国民が団結し、予想を上回る抗戦を続けている。彼らを全面的に支持する。しかしなぜ圧倒的な大国の侵略に怯まないのか。それは自分達の運命を自分達で決め、その権利を守ることにコミットしているからではないだろうか。
コロナとの戦いにおいてもそれは同じだ。団結して立ち向かう上で、行政・医療者・市民が共に当事者として団結することが重要であり、そのことにコミットできる形がなければ一体的な対策は困難である。この2年間、学会や団体を通じて全国の対策に関わり、医師会や医療者の立場で地域の対策を行う中でこのことを痛感してきた。
この度、経済協力開発機構(OECD)が“First lessons from government evaluations of COVID-19 response:A Synthesis”1)という報告書をまとめた。パンデミック当初から15カ月の対応を、各国が分析したものを総括したもので、これからの対策に活かすべき貴重な示唆に富んでいる。
ここで強調されていることのひとつにも、対策の意思決定への医療者をはじめとしたステークホルダーと市民の参画が挙げられている。このことは、社会全体として取り組む体制づくりの方法であるとともに、コミュニケーションの一環としても推奨されている。
日本では新型インフルエンザ等対策特別措置法により、国・県・市町村に対策本部が組織されており、県・市町村レベルでは行政職員以外の出席も可能にする規定があるが、必ずしも医療者や市民が参画しているわけではない。そのため、検査やワクチン接種の取り組みもバラバラに推進され、医療現場で不足している検査キットが、教育現場では有効に活用されないまま使用期限を迎えるなど、ほころびが生じている。
新型コロナ感染症が病気である以上、医学的な視点は必要であり、現場で実際に対応する医療者や、例えば高齢者のワクチン接種なら、供給に関わる事業者や介護施設職員などにも事情を聞き、すり合わせた上で対策を決定することが不可欠である。そのほか、様々なレベルで市民の意見を取り入れることが重要であることも含め、報告書に指摘された通りである。
これからも続く戦いに、これまでの教訓を活かし、当事者が共に意思決定を行い団結できるかどうかが、それぞれの国の命運を左右すると言えるだろう。〈3月3日〉
【文献】
1)OECD:First lessons from government evaluations of COVID-19 response:A Synthesis.
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症]