No.5116 (2022年05月14日発行) P.59
野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)
登録日: 2022-04-22
最終更新日: 2022-04-22
この春、私のパートナーが定年になった。今までは、地域の基幹病院の副院長であった。第二の職場として、療養型病院の院長職などのご紹介もあったらしいが、本人的には管理職よりも現場が好きなようで、友人の開業医のお手伝いなどに日々、出かけている。
定年制度というのは、考えてみれば奇妙なもののようにも思える。学生時代、老年病学で習ったことは、老人は個々人によってその体力や健康度には大きな差があり、年齢だけで判断してはいけない、という内容であった。にもかかわらず、定年制度はある一定の年齢で皆が退職となる。もちろん、日本のような終身雇用システムでは、定年制度がなければ、いつまででも居続けられることとなり、それも困ったものであることは理解できる。医師の場合、定年になっても、私のパートナーのように仕事がまったくなくなるわけではなく、むしろ、好きな働き方ができるわけで、医師という職業のこのような恵まれている点に関しては、若い時には考えも及ばなかった。
さて、東京大学には、任期付の教員が産前・産後休暇、育児休暇などを取得した場合、この休暇期間分を任期として延長できる制度がある。これは、このような休暇を取っても、本来の任期の期間、教育、研究に従事でき、任期に見合った評価を受けるためのシステムとされている。非常に合理的であると考える。
一方、私は産前・産後休暇は取ったものの、育児休暇は取得せず、常勤を継続した。では、これが、子どものいない、もしくは他に育児を専業とする家族がいる教員と比較して、育児中に同じだけの仕事の能率が得られたか、というとまったくそうはいかなかったのが現実である。どうしても、母親に負担がかかりがちな育児を経験した女性にとって、同じ期間に、育児をメインに担わない勤務者と同等の効率を上げよ、と言われても難しい。ぜひ、育児休暇を取得していなくても、育児を行った者への評価の配慮はあってほしいものである。
定年制に話は戻るが、2020年の日本人の平均寿命は、女性87.74歳、男性81.64歳、と女性のほうが5歳以上長い。女性は女性ホルモンに守られていた時期があり、長寿である、という説もある。つまり、女性は妊娠、出産、育児のために人生がゆっくり流れるようになっていると言っても過言ではない。だとしたら、定年後に生活をしていく年数も考慮し、女性の定年年齢を男性よりも高くする、という発想があってもいいように思う。
野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[定年年齢]