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【識者の眼】「不妊治療の保険適用における法的論点」川﨑 翔

No.5126 (2022年07月23日発行) P.63

川﨑 翔 (よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)

登録日: 2022-07-01

最終更新日: 2022-07-01

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2022年4月から不妊治療の保険適用が開始されました。不妊治療を行う医療機関にとって、かなりのインパクトがある動きでしょう。患者にとっては、費用負担という面ではメリットとなる点もありますが、出生率の向上にどの程度寄与するかは慎重に見ていく必要がありそうです。実家が不妊治療を行うクリニックだったこともあって、個人的にも気になる動きです(顕微授精の機械が実家のクリニックに納品された日は、そのメカっぽい感じに子ども心にワクワクしたのを覚えています)。

経営や技術上の論点については、他の専門家の皆さんの解説にゆだねることとして、ここでは法的な論点に絞ってお話しようと思います。

不妊治療は、カップルに対する治療であることが大きな特徴です。保険適用でクローズアップされるのが、事実婚のカップルへの対応でしょう。自費診療であっても、婚姻関係等の確認は行われてきましたが、もっぱらトラブル回避の側面が強かったように思います。しかし、今回の保険適用にあたっては、保険治療の対象そのものを規定するかたちになるため、医療機関としては、事実婚の確認作業について慎重になるということも懸念されます。厚労省の患者向けパンフレットでも、事実婚が治療対象となることを認めつつも「受診の際に医療機関から、事実婚関係について確認されたり、書類を求められたりすることがあります」との表現にとどめており、各医療機関の判断にゆだねられるかたちになりそうです。

また、不妊の原因が必ずしも特定できないという点も難しい問題です。病名をどうするのかという形式的な問題もありますが、現場としては、治療や検査の適用について悩む場面も増えるのではないかと感じています。

医療機関が慎重な対応にならざるをえないのは、個別指導における指摘対象になるのではないか、という懸念がぬぐえないからだと考えています。不妊治療については、クリニックから厚生局に対して疑義照会を行っても明確な回答がなされないという状況もあるようです。このような状況からすれば、不意打ち的に、不妊治療に関する部分が個別指導での指摘対象となる可能性は低いと思いますが、一定期間が経過し、運用が安定してきたタイミングで厚生局側が個別指導において、重視すべきポイントとすることは十分にありうるでしょう。保険適用となった以上、早期に、厚労省から詳細なQ&A集が公開されることが望ましいと思います。

川﨑 翔(よつば総合法律事務所東京事務所所長・弁護士)[クリニック経営と法務]

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