No.5126 (2022年07月23日発行) P.57
柴田綾子 (淀川キリスト教病院産婦人科医長)
登録日: 2022-07-04
最終更新日: 2022-07-04
サル痘(monkeypox)がアフリカとヨーロッパを中心に世界各国で急増し、2022年1月から6月22日の段階で3400人の感染者が報告されました。感染経路不明者が複数出てきていることから、WHO(世界保健機関)は、海外からの持ち込み例だけでなく地域内で感染が起こる可能性が高く、妊婦や子どもなども含めた一般の方もサル痘の感染を注意する必要があると発表しました1)。サル痘は、アフリカで流行していた発熱と発疹を中心とするウイルス感染症で、感染した動物や人との接触(皮膚、体液、血液)や性行為、飛沫への長時間曝露で感染します。感染すると1〜2週間の潜伏期間後に発熱、頭痛、リンパ節腫脹が出現し、数日後に顔面(口腔内)・手足・性器に皮疹や水疱が出現。多くは自然に改善しますが、重症になると肺炎、敗血症、脳炎となり死亡率は3〜6%です。予防として天然痘ワクチンの投与が検討されています。
WHOでは、妊婦や子どもではサル痘の重症化のリスクがあるとしています1)。Lancetの論文では、妊娠中の感染は胎児の先天奇形、流産、母体の重症化/死亡のリスクがあると報告しています2)。アフリカでの妊婦感染例では、サル痘のウイルスが胎盤・臍帯・児から検出されています。
妊婦に発熱、リンパ節腫脹、皮疹、水疱を認めた場合はサル痘を鑑別に挙げ診療します。サル痘の診断はPCR検査で行いますが、同時に帯状疱疹、ヘルペス、梅毒の除外も必要です。胎児エコーでは胎児水腫、肝腫大に注意し、胎児心拍モニタリングを行います。
治療薬のテコビリマット(tecovirimat)や予防薬のワクシニア免疫グロブリンは日本ではまだ未承認です。テコビリマットは妊娠中の使用データはありませんが、ブリンシドフォビル(brincidofovir)や免疫グロブリンは妊娠中の治療に検討できます3)。天然痘のワクチンは、感染予防に加えて曝露後の重症化予防がありますが、生ワクチンのため妊婦には接種できません。医療従事者が疑い症例に対応する際は、接触飛沫感染に加えてエアロゾル感染を考慮し、N95マスクを装着、念のため空気感染対策を行います。
【文献】
1)WHO:Risk communication and community engagement(RCCE) for monkeypox outbreaks. Interim guidance 24 June 2022.
2)Dashraath P, et al:Lancet. 2022 Jun 21:S0140-6736(22)01063-7. doi:10.1016/S0140-6736
(22)01063-7. Epub ahead of print. PMID: 35750071.
3)Khalil A, et al:Ultrasound Obstet Gynecol. 2022;60:22-7.
https://doi.org/10.1002/uog.24968
柴田綾子(淀川キリスト教病院産婦人科医長)[ウイルス感染症]