No.5131 (2022年08月27日発行) P.60
草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)
登録日: 2022-08-01
最終更新日: 2022-08-01
つい先日、地域で総合診療に取り組む学会員から相談があり、学会の活動としてSDGsへの取り組みに貢献したいとの申し出があり、様々な角度からディスカッションをすることができ、目から鱗が落ちる経験をした。
ご存じのように、SDGsとは「持続可能な開発目標」の略称で、2015年に国連で定めた17の国際目標で構成され、「誰一人取り残さない」持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現を世界全体でめざすものである。日本も国として賛同し、SDGsアクションプラン2022を策定し、感染症対策と未来の基盤づくり、成長と分配の好循環、地球の未来への貢献などの目標を設定しつつ、海外への取り組み支援も展開している。しかし、私自身はその目標の多くは国家が政策として取り組むべき内容ととらえていたため、「なぜ、医療が?」と今回の申し出に当初はぴんとこなかった。ただ、話を伺うと医療がそこで果たす役割の大きさが見えてきた。
先進国として日本が抱えるSDGs目標の中でも、気候変動対策、つまり温暖化の抑制のための温室効果ガス削減は待ったなしの課題である。国は2030年に2013年比で46%削減、2050年にはカーボンニュートラル、つまり温室効果ガスの実質排出を0にすることを目標として打ち出した。大変野心的な目標である。実は医療界はこの温室効果ガス排出の4.6%の責任を負っているという研究が国立環境研究所の南齋規介氏から2019年に発表された。この数字は一見低そうに見えるが、他の排出の多い産業が排出減少しているのと異なり、近年でも排出量が増えているという厳しい指摘がある。
また、脱炭素化を医療機関が推進することも重要だが、我々プライマリ・ケア医が日々の患者との対話の中で脱炭素化を話題にして積極的に進めることも効果的だと海外の事例では示されているようだ。つまり、医療従事者が脱炭素化、そして気候変動対策へと日々の活動で意識的に取り組むことには大きな意義がある。
私たち、プライマリ・ケア、総合診療の領域は、医療資源を最小限に活用し、効率良く診断と治療を実施することが元から得意である。是非、このSDGs推進についても医療界の中で旗振り役として大いに貢献したい。
草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療][SDGs]