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【識者の眼】「医師によるパワーハラスメント」島田和幸

No.5138 (2022年10月15日発行) P.67

島田和幸 (地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)

登録日: 2022-09-28

最終更新日: 2022-09-28

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我々の病院では、職場環境を改善するために、多職種が本音で話し合う会を定期的に催している。「職場で誰から、どんな時に、どんな言動や態度のハラスメントを受けたか?」を話し合ったことがある。その中で、「医師によるハラスメント」について、以下のような切実な声があがった。「バカなの? と言われた」「下の名前や“ちゃん”付けで呼ぶ」「できないことをやれと言われた」「ナースステーションで職員に対して大声で怒鳴る」「看護師の経験年数によって態度を変える」「物に当たるなど威圧的な態度をとられた」……など。

医師の看護師や同僚医師などに対するパワーハラスメントは、世間でよくある「上司が自分に従属する部下に対して絶対的権威を振るう」タイプとは多少性格が異なっている場合が多いように思う。

「自分は、医療のプロとして一生懸命患者に尽くしている、だのに何故あなたはそれができないのか? しっかりしないとだめじゃないか」などとその動機は権威的というよりも職業的、指導的意識に基づいていることが多い。その気持ちがストレートに言動や態度に現れ、それを受け取った側の心を傷つけたとしても、人の命に関わる医療現場では正当化されると医師は考える。周りは、逆に医師の気持ちを斟酌して、不快に思っても受け流そうとする。医師は「自分が正義であり、相手が誤っている」ことを疑わないため、このことが繰り返されると、感受性が高い職員のメンタルストレスは危険レベルに達する。そこまでくると、現代では職場環境を守り、職員の離職を防止するためにも、組織としてパワーハラスメントの詮議をせざるをえない。

様々な部署の仕事をこなし、1つの会社に終身雇用される組織(メンバーシップ型)とは異なり、医療現場では、個々の職員が国家資格を有する専門職であり、一人一人独立したプロ同士が組織(ジョブ型)を構成している。その意味では、医師に限らず、看護師や医療技術系職員にも通じることである。

医師の場合は、他職種や“弟子”の医師に指示する立場にあるために、問題が生じやすく、かつ潜在化しやすいと言える。医療人同士の人間関係は、会社員のそれとは異なっており、パワーハラスメントの内容も違ったものになる。医師をはじめ医療従事者には、管理能力というよりもコミュニケーション能力にフォーカスしたパワハラ教育が行われるべきだと考えている。

島田和幸(地方独立行政法人新小山市民病院理事長・病院長)[パワーハラスメント][メンタルストレス][コミュニケーション]

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