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【識者の眼】「God Save the King(Queen)」早川 智

No.5139 (2022年10月22日発行) P.58

早川 智 (日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授)

登録日: 2022-09-29

最終更新日: 2022-09-29

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英国国歌“God save the King(Queen)”は一度耳にすると忘れがたい。作詞・作曲者は不明ながら気品あるこの曲は18世紀より歌い継がれている。残念ながら過日エリザベス2世女王が崩御されたが、直ちに歌詞の中のQueenがKingに、Send her が Send him になった。直訳すると「神よ国王(女王)を救いたまえ」意訳すれば「国王(女王)万歳」になる。英国ではこの曲があらわれる以前からよく使われた言い回しである。国王、女王が健康なときも折に触れて、病気のときはさらにもましてこの文言を国民が唱えてくれていることになるが、実際の寿命はどうだったのだろうか。

現在の英国王家に血の繋がるのは11世紀にノルマンディーから征服者として来寇したノルマン家だが、途中で男子直系子孫が途絶あるいは宗教上の理由(17世紀以降はプロテスタントしか地位につけない)から王位相続ができない場合には血縁関係にあるチューダー家、スチュアート家、ハノーバー家、サクス・ゴータ・コバーグ家(ウインザー家)の各王家が継承している。

歴代国王の生没年を調べると、ノルマン人による征服以前の古王国では37.5歳、ノルマン-プランタジネット王家(48.2歳)、チューダー家(41.8歳)、スチュアート家(50.3歳)、ハノーバー家(73.2歳)、サクス・ゴータ・コバーグ家(ウインザー家)(74.5歳)となる。死因についてノルマン征服以前はあまりはっきりしないが、全君主63人中暗殺が8人、戦死が3人、刑死が2人など、死亡診断書では外因死の範疇に入る国王や女王が17人に達する。しかしチャールズ2世による王政復古の後は畳の上ならぬベッドの上で天寿を全うしている。これは、生活レベルや遺伝的背景の近い北欧やドイツの君主の平均寿命とほぼ同じである。EBMの総本山 英国のCochraneをみてみると、God save the kingに限らず、寿命に及ぼすお祈りの効果という項目がある。

これをみると、様々な良性あるいは悪性疾患において、祈祷の寿命延長効果は証明されないが、第三者が回復を祈っていると、合併症が少なく社会復帰ができる確率が高いという。「病は気から」の諺どおり、本人の回復への強い意志が疾患の治癒に大きく関与することは間違いないが、他の誰か自分のために祈ってくれる人がいるということは大きな助けになるだろう。

故エリザベス2世のような名君の場合、多くの国民が心から願ったことは間違いないので、女王陛下の長寿に寄与したに違いない。新たに位につかれたチャールズ3世陛下が国民に愛され、長寿を保たれることを祈りたい。

早川 智(日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授)[お祈りのエビデンス]

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