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【識者の眼】「優秀な部下は意見を言わない者?」野村幸世

No.5138 (2022年10月15日発行) P.66

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2022-09-30

最終更新日: 2022-10-03

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私は大学卒業以来、研修医時代を含め、いろいろな職場で働いてきた。多くの医師もそうなのではないかと思う。そのいろいろな職場で自分がハッピーだったところと、そうでないところがある。この違いは何かと最近よく考える。自分で言うのもおこがましいが、私は恐らく、よく働く優秀な部下であったはずである。ただ、時には、上司に対しても自分の意見を言い、反対意見を述べることもある。しかし、最低限の礼儀を守らずに言うことはないと思っている。恐らく、私がハッピーであった職場とそうでない職場の違いは、このような私に対する上司の評価の違いであろう。

私自身は、自分の意見はきちんと伝えるよう育てられてきたと思う。これが、時に、上へは絶対服従を強いる日本の文化とは合わない時があるのだと思う。かつて、社会医学系の教室の運営者たる大学の先輩に冗談半分に「私のこと雇わない?」と聞いたところ、「やだ。お前、自分で物考えるから」と言われたことがある。これは冗談の会話ではあるが、私は目が丸くなった。「消化器外科女性医師の活躍を応援する会」の活動を続けるうち、私は、このような自分で物を考えない部下が好ましいと思う日本文化(?)は男性のものではないかと勝手に思うようになった。しかし、今度は、女性の先輩で教室を運営している先生から、「下の子がだんだんいろいろできるようになって、意見を言うようになったら、外に出しちゃうのよね。そういう子がいると、やりにくくて仕方ない」という意見を聞き、男性だけの文化ではないのだ、と思った。

いずれにしても情けない上司である。私が米国留学時代に習った仕事の仕方は、やはり、私が育てられた時に教わったのと同じ、「自分の能力は最大限に伸ばせ。そして、それに基づいて意見を述べろ」というものであった。米国で「だんまり」は失礼である。皆で意見を出し合い、ディスカッションをし、より良いものをつくり上げていく、というのが米国での仕事の仕方であった。

皆で意見を出し合い、話し合えば、必ずやもっといいものがつくり上げられるはずである。上に立つ者は、自分に絶対服従する者を部下に置いて安心しているのではなく、むしろ、自分とディスカッションをしてくれる者をそばに置き、共に高め合っていくべきである。

私自身は、下の子に物を習うことをまったく厭わず、ディスカッションを楽しんでいる。自分で考え、意見を言う者がそばにいては「働きにくい」というような、料簡の狭さは捨てていただきたいものである。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[ハッピーな職場]

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