No.5159 (2023年03月11日発行) P.58
中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)
登録日: 2023-02-17
最終更新日: 2023-02-17
2023年1月末、粉雪の舞う岩手県陸前高田市の奇跡の一本松ホールで「はまかだ交流会」が開催された。「はまかだ」とは、「はまってけらいん、かだってけらいん(仲間に入って、話しましょう)」という地元の言葉の略称である。陸前高田市では、被災直後から、保健医療福祉行政、地元の医療機関、外部から駆け付けた医療団体やNPO/NGO、個人が参加して、保健医療の調整や地域の健康推進、その時々における市民生活の今と未来を考え続ける「未来図会議」が定期的に開催されてきた。「はまかだ」は、その継続的な活動のなかから生まれ、2022年末にちょうど10年を迎えた。
交流会当日は、介護予防自主グループの発表やAIDS文化フォーラムなどの講演だけでなく、市民グループがブースを出していた。社会福祉協議会、保健推進員、食生活改善推進員という歴史のある団体とともに、震災後に新しくできたNPOや団体も少なくなかった。子育て、整体、お菓子、昔遊び、くらし、思い出写真など様々な活動団体が隣りあっているので、高齢者の方々と幼児連れの家族やボランティアの若い世代を含め、いっしょの場で「はまかだ」を楽しんでいた。狭い意味での健康増進ではなく、まさにウェルビーイング(身体的、精神的、社会的にいきいきと生活する状態)を多世代の人々が自ら作り上げ、享受していた。
東日本大震災から12年。陸前高田市では、人口は減少し、高齢化率は40.4%に上昇したという。そんな厳しい状況のなかで、震災で培った地域の外の人や団体との連携、震災後に生まれた地元住民の自主的な活動、そして、それを支援する地方自治体の企画力とつなぎ続けようとする姿勢。陸前高田市には、震災で得られた、垣根を越えた多職種・多機関の協働という理念と実践がいまも息づいていた。
「ビルド・バック・ベター」(Build Back Better!)は、復興過程のなかでより良い新しいものを創造していこうという、世界中の被災地での合言葉である。陸前高田市では、厳しい環境のなかで、いままでになかった新しい発想やつながりが芽生え、ゆるやかでしなやかな連携のもとで、多様性や包摂性に基づいたまちづくりが進められている。いま、日本全体が高度専門社会の罠に陥り、組織横断的な自由な発想に基づく協働が困難になっているなかで、震災復興の最中にコロナ禍を経験した地方自治体の、地域の未来を見据えた地道なチャレンジから学べることは少なくないはずだ。
中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[東日本大震災][地域保健医療]