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【識者の眼】「乳腺外科医事件差戻審の行方はどうなるであろうか」小田原良治

No.5160 (2023年03月18日発行) P.60

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2023-03-07

最終更新日: 2023-03-07

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2022年2月18日、最高裁第2小法廷は、乳腺外科医事件について、『せん妄』を否定して有罪とした東京高裁判決を破棄し、東京高裁に差し戻した。

乳腺外科医事件は、乳腺外科医が自ら執刀した女性患者の胸を術直後に舐めるなどのわいせつ行為をしたとして逮捕・起訴された事件である。東京地裁は術後の『せん妄』の可能性を認め、また科学捜査研究所の杜撰なDNA検査を指摘して無罪とした。ところが控訴審の東京高裁はせん妄の専門家の意見を無視し、独善的に術後『せん妄』を否定して逆転有罪とした。このため弁護側が最高裁に上告していたものである。筆者も当時、控訴審判決を本誌において批判した1)

最高裁が、術後における『せん妄』の可能性を否定した東京高裁の判断に問題があることを認め、東京高裁判決を破棄したことは、とりあえずは安堵するものであった。ただ、この最高裁判決から約1年が経過したが、差戻審公判はまだ開かれていない。

最高裁は判決文で、(1)手術の内容、麻酔薬の種類・使用量、疼痛の訴えと鎮痛剤投与状況等を総合的に評価し、『せん妄』を否定した高裁判決が、東京地裁の判断の不合理性を適切に指摘しているとは言えない。(2)ただ、アミラーゼ鑑定、DNA鑑定の結果によっては女性患者の被害証言の信用性が肯定され、『せん妄』についての判断の誤りが判決に影響しない可能性がある。(3)控訴審にあたって検察官、弁護人双方からDNA定量検査を含む事実の取調べ請求があったにもかかわらず、その取調べを行っておらず、審理が尽くされていない─としている。

術後『せん妄』をめぐるトラブルの可能性については、我々医療者も十分注意を払うべき問題であるが、とりあえず最高裁で術後『せん妄』の可能性が否定されなかったことは評価すべきことであろう。

科捜研のDNA定量検査の杜撰さは、すでに第1審である東京地裁で、審理済みであることから、『推定無罪』の原則に基づけば、最高裁は刑訴法413条但書きにより破棄・自判(無罪)すべき案件のようにも思う。第1審判決があるにもかかわらず差し戻したということは、科捜研検査という警察・検察の面子に配慮した判決なのだろうか。いずれにしても、まだ裁判は終わっていない。ここで関心が薄れることがないよう、我々医療者も差戻審の成り行きに注視していく必要があろう。

【文献】

1)小田原良治:医事新報. 2020;5023:58.
http://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=15145

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[せん妄][DNA検査][科学捜査研究所]

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