コロナ禍を経て医療介護のあり方の見直しが進む中、「ケア」をその中心に置くべきだという議論がある1)。
当院の理念の第一は、“人としてトータルにケアする医療をチームで提供する”である。英語の 「care」とは「feel concern or interest;attach importance to something(Oxford Dictionary of English)」とされていることからもわかるとおり、「何かをする行為」ではなく、患者さんや症状を「気にかけ重んじた上で、何かをする気持ちを持つこと」と理解して医療にあたるよう、スタッフ一同努めてきた。
コロナとの戦いと全体主義との戦いという、我々がいま直面している二つの戦いも、つまるところ「一人一人に対するケアを守る戦い」ではないかと考えている。
上述の記事に書かれているように、ケアは人と人の間でしか発生しない。そして一人一人の間の関係を構築していくことこそ必要であることは疑いの余地はないだろう。
この3年間、コロナの発熱外来をしているが、数年ぶりに当院を受診しても「かかりつけ医」と書いてくれる人がいる。不思議に思い考えてみると、意思を尊重してケアをした患者さんや、自宅で希望に沿いながら最期まで診た方のご家族であったりすることが多い。「かかりつけ医」の定義は難しいが、患者が「ここに来れば尊重され、ケアしてもらえる」と思い、医師がそれに応える気持ちを持っていれば、それで良いのではないかとさえ感じている。
制度やシステムが数字だけを追い続けると、一人一人のケアが忘れられてしまう。一方、システムが機能しなければケアの質が上がらないばかりか、提供する側も、努力しても改善の希望が持てないことで疲弊してしまう2)。医療介護だけでなく、社会全体が一人一人を尊重し、ケアすることを主眼に置きながら全体として機能する仕組みを、時代の変化に応じて再構築できるかが問われている。
【文献】
1)Iona H, et al:BMJ. 2023;380:464.
https://www.bmj.com/content/380/bmj.p464
2)Reinhart E:NY Times. 2023;Feb 5.
https://www.nytimes.com/2023/02/05/opinion/doctors-universal-health-care.html
小倉和也(NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク共同代表、医療法人はちのへファミリークリニック理事長)[新型コロナウイルス感染症][かかりつけ医]