以前の連載記事で、健康食品の相談窓口として薬剤師の役割について紹介した1)。それがきっかけとなったのかどうかはわからないが、先日、薬剤師を対象に健康食品に関する相談対応のコツやポイントを紹介するセミナー講師の機会を頂いた。質疑応答にて、健康食品に関する様々な相談に、薬剤師の立場として懇切丁寧に対応していることを窺い知ることができ、患者やその家族が健康食品のトラブルに巻き込まれないための門番の役割を担っていることが再認識できた。だが、薬剤師ならではの悩みがあることも新たな課題として浮かび上がった。
薬剤師は薬局のいわば「顔」である。その薬剤師が、特定の健康食品に対して好意的な態度を示せば、「あの薬局で勧められた健康食品」といった口コミが広まりかねない。たとえ薬剤師が中立的に健康食品の有効性データを説明しても、人は自分が見たい情報だけを見る癖があるため、薬剤師の説明を自分の都合のよいように解釈(あるいは誤解)してしまう可能性がある。解決策のひとつとして、消費者のヘルスリテラシー(健康や医療に関する正確な情報を入手し、理解して活用する能力)向上が挙げられるが、強制できるようなものではなく、また一朝一夕に能力が向上するわけでもない。
セミナーでは、連載記事で紹介した通り、健康食品の安全性・有効性のデータ(What)だけでなく、健康食品を利用してどうなりたいのか(How)、何故そのように考えたのか(Why)についてもコミュニケーションを図ってほしい旨を伝えた。しかし、「What」の説明の仕方については改善・工夫の余地があることを思い知らされ、講師の立場である筆者が新たな学びを得る機会となった。
【文献】
1)大野 智:医事新報. 2022;5128:64.
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20064
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法㊴]