2023年6月、SNS上を席巻している医療漫画をご存知だろうか。
その名も「脳外科医 竹田くん」。架空の市「赤池市」にある市民病院が舞台になっている。脳外科医の「竹田くん」が医療事故を連発し、騒動になる顛末が描かれており、現在(2023年6月12日)も連載中だ。
この漫画の舞台がある医療事故の事例に酷似していると言われている。兵庫県の赤穂市にある赤穂市民病院で起こった事例だ。
実は私は、フリーランスの病理医になる直前にこの病院に勤務していた。部署が違い把握していなかったが、医療事故が起こった時期に在籍していたのだ。私自身は事故を知らずに2020年3月末で退職したが、まさかこのようなことが起きていたとは知らず忸怩たる思いがする。
漫画を読む限り、病院関係者が関わっていることは間違いない。登場人物の名前や造形が実際の人物によく似ている。どこまで事実かは不明だが、リアリティはある。
しかし、重要なのは真偽ではない。SNS上でここまで大きな話題になったのは、この漫画が日本の医療界が抱える矛盾を明らかにしているからだ。
多くの医師たちは、医療事故を連発した「竹田くん」のような医師が身近に実在するという。かつて医局制度があったときは、「竹田くん」のような難がある医師は大学病院などの「閑職」につけて一般病院に出さず、患者さんに害がないようにしていたという。しかし、医局制度が崩壊しつつある中、「竹田くん」のような医師が医局を介さず、病院に勤務するようになった。
だからといって、かつての医局制度を復活させようにももはや手遅れだし、様々な矛盾を孕んでいた医局制度をそのまま復活することはもはやできないだろう。医療エージェントは質保証まではしない。ではどうすれば良いのか。
作中で医療事故に対する病院の対応が後手にまわっているのも、既視感がある人が多かった部分だ。漫画で描かれたように、患者そっちのけで自己保身と事なかれ主義に走る姿は、病院に限らず多くの組織でみられるものだ。
このように、たとえフィクションだとしても、この漫画は日本の医療、ひいては日本の社会が抱える問題をリアルに浮かび上がらせていると言える。「あそこまで酷い事例は流石に少ないだろう」と笑って済ますわけにはいかない。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[医療事故]