ChatGPTはOpenAIにより公開された人工知能チャットボットで,インターネット上で誰でも簡単に使用でき,またこれまでのAIよりはるかに自然な解答を得られるとして,様々な観点で話題となっています。ChatGPTを医療者が実際に使用する際に,知っておくべき注意点がいくつかあります。
ChatGPTは多言語に対応しており,日本語で質問をすれば日本語で,英語で質問をすれば英語で回答が返ってきます。また,日本語で質問をした場合でも「英語で出力して下さい」と指示すれば,英語で出力することができます。ChatGPTで使用している大規模言語モデルの元となっている学習データは,日本語よりも英語のほうが圧倒的に多いため,英語で文章の生成を依頼するほうが,回答の質が高くなる場合があります。英語で出力した結果を日本語に翻訳するほうが,より良い回答を得られるかもしれません。
ChatGPTをはじめとした生成AIに関して,使用を禁止している大学や企業,学会,学術誌があります。これは,入力したデータが個人情報や企業の機密情報を収集している可能性や,作成した文章が盗用にあたる懸念があるためです。使用に関する方針は学会や団体ごとに異なります。たとえば,2023年に開催される,機械学習に関する国際学会(Fortieth International Conference on Machine Learning:ICML)では,ChatGPTなどの大規模言語モデルを用いて文章を一から作成することは禁止していますが,自分自身が作成した文章の推敲に使用することは許容されるとしています1)。使用する際には各施設の規定を確認し,論文に使用する場合には投稿先の雑誌の投稿規定を確認しましょう。
ChatGPTでは,プロンプト(AIに対する指示文のこと)の入力により,得られる回答の質が大きく異なります。機械学習の領域では“Garbage in, garbage out.”(ゴミを入れてもゴミしか出てこない)という名言があり,どのようなプロンプトを入力するかがChatGPTをうまく活用できるかどうかの鍵になります。これまでに,様々なプロンプトのテンプレートが提案されていますが,最も有名なもののひとつが,「深津式プロンプト」と呼ばれるものです。これは,深津貴之氏〔株式会社noteのCXO(Chief X Officer)〕がYouTube上で行っている,ChatGPTの活用方法についてのレクチャーで紹介された手法です2)。この方法は既に広く活用されており,医療分野での応用も可能です。深津氏はプロンプトを入力する際には下記の点が重要であることを述べています。
1. ロールを明確にする
2. 入力から出力を作ることを明確にする
3. 何を出力するかを明確にする
4. マークアップ言語を用いて,本文でない部分を明確にする
5. 命令を箇条書きで明快にする
6. 様々なワードで,AIの出力しうる空間を,積極的に狭くしていく
つまり,役割を与えた上で明確な指示を行い,なるべく要求を細かく限定していくことで,求めたい出力を得ることができるのです。「深津式プロンプト」を用いてプロンプトを作成する場合におすすめしたいのが,下記のようなテンプレートです。
#役割
あなたは、プロの○○です。
#命令書
以下の制約条件から、○○を出力して下さい。
#制約条件
・出力は英語で行って下さい。
・○○○
#入力文
〈----------ここに文章を入力----------〉
このように入力することで,ChatGPTが特定の分野のプロフェッショナルとして振る舞い,得たい回答を理想的な形式で出力してくれます。
ChatGPTは医療分野において様々な利用方法が考えられますが,今回は英語で論文執筆や国際学会発表を行う方向けに,「深津式プロンプト」を活用した具体例を3つ紹介します。
英語で論文や症例報告を執筆するのは,英語が第二言語である日本人にとって,多くの方が苦痛に感じるところです。自分の書いた英語に自信がないときや,人に見せる前に間違いを修正しておきたい場合などに,ChatGPTに英文校正を依頼することができます。例として,下記のような指示を行います。
#役割
あなたは、プロの英文校正者です。
#命令書
入力文の英文校正を行って下さい。
#制約条件
・出力は英語で行って下さい。
・文法ミスやスペルミスを修正して下さい。
・より科学的でアカデミックな単語を使用して下さい。
・修正した部分は,修正前,修正後,修正した理由をまとめて表にして下さい。
#入力文
〈----------ここに校正したい英文を入力----------〉
実際に英文校正を行った例を図1に示しました。修正前の文章に含まれていた,単数形や複数形,副詞と形容詞の違いなど,間違いがあった部分を修正してくれています。また,指示通り,修正した文章の後に,修正箇所と修正した理由を表示してくれます(図2)。
文章が改善されるだけでなく,この修正理由は英語学習に有用な場合があります。ただし,修正後の文章が正確であるという保証はなく,修正後には文章のダブルチェックが必要です。特に,医学用語や固有名詞を別の単語に置き換えてしまい,本来の意図と異なった文章になる場合があるため,注意しましょう。
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