2025年5月、日本で初めてAIに特化した法律「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(以下、AI推進法)が成立しました。AI推進法は、AIの研究開発と活用を国が総合的かつ計画的に推進することを目的とし、内閣に「人工知能戦略本部」を設置するなど、政府主導でAI政策を進める体制を整備しています。また、AIの適正な利用を確保するために、国際的な規範に即した指針の整備や、事業者への指導・助言などの措置も盛り込まれています。資源に乏しく、超高齢化で労働力不足に直面する日本にとって、AIの推進は避けられない選択肢と言えるでしょう。
医療現場においても、AIの活用は進んでいます。筆者の勤務先でも電子カルテの内容をもとに、紹介状などの医療文書を自動生成するAIの試験導入を開始しました。これにより、上手く使われれば医師や医療スタッフの事務作業時間が削減され、患者さんと向き合う時間を増やすことが期待されます。
しかし、AIの活用には注意も必要です。生成AIは、ときに誤った情報を自然に記述する「幻覚(ハルシネーション)」という問題を抱えています。医療文書に誤情報が入り込んだ場合、重大な医療事故につながるおそれも否定できません。AIがつくり出した情報に対しては、それを扱う我々の責任と倫理観、そして生成物を監視・評価する能力が強く求められます。
AI推進法の成立を機に、我々は改めてAIとの向き合い方を見直すべきでしょう。単に「便利だから」という理由だけで導入を進めるのではなく、「患者さんにとって真に役立つ医療」の実現をめざす視点が必要です。AIを利用する側の人間としての責任を自覚し、社会に安心感を与える適切な活用を進めていきたいと思います。
鍵山暢之(順天堂大学大学院医学研究科循環器内科学教室准教授)[AI推進法]