こんにちは。酷暑が続きますね。山下です。
さて今回は、社会保障に関する情報提供義務の問題の解決策を考えてみたいと思います。確認のために整理すると、情報提供義務の問題点は、大きく2つにわけられます。
1つが、受給者側の権利の問題です。たとえば市民が社会保険料をしっかり払っていて、給付を受ける権利が法的には発生していても、本人がそのことを知らなければ、権利を行使することはできません。つまり、情報提供の義務が適切に果たされないことは、市民の権利行使を阻害することにつながります。
もう1つが、社会保障を提供する(あるいはそれに関与する)側の問題です。裁判によって情報提供義務違反が認められれば、場合によっては数百万円以上にのぼる損害賠償を支払う義務を負わされます。No.5164で示したように、行政だけではなく医療法人がこの義務を負うこともあります。
このように、情報提供義務をめぐる問題は、受給者と供給側の双方にとって非常に悩ましい問題です。では、どのような解決が可能でしょうか。
第1に、社会保障の知識を広める方法があります。中学校・高校で基礎的なことを説明したり、職場でセミナーを開いたりすることなどです。誰もが十分な知識を持っていれば、情報提供義務が裁判で争われることはありません。この方法が王道だと思いますが、本人の意識や学校・職場の取り組み具合で、知識量に差が出てくるように思います。
そこで第2に、社会保障の権利を「自動化」するというアイデアがありえます。たとえ本人に知識がなくとも、受給のための条件に合致した人には自動的に社会保障の給付が行われるようなしくみです。そうすると、適切な情報を得られなかったため受給漏れが生ずるという事態が起こらず、情報提供義務という論点自体がなくなります。
そして、現代における情報技術の進歩と、政府の取り組みの方向性からすれば、この第2の方法は決して不可能ではないように思います。もう皆さんもピンと来られたかもしれませんが、マイナンバー制度の活用です。……マイナンバーをめぐる現下の状況で、このようなことを言うのはかなり気が引ける部分もありますが。
とはいえ、情報提供義務の問題を考える上では避けて通れない問題なので、次回はこの点をもう少し詳しく示してみたいと思います。
山下慎一(福岡大学法学部教授)[情報提供の義務][社会保障][損害賠償][訴訟リスク][マイナンバー]