来年に迫った医師の残業規制。各病院が対応に追われる中、その切り札と言われているのが急性期病院の集約化だ。なかでも私が住んでいる兵庫県では、神戸大学が中心となり、複数の病院が11の病院に集約されるなど、着実に成果を蓄積している1)。
ところが、そんな動きに水を差すような出来事があった。2023年7月23日に行われた三田市長選挙で、病院統合の決定を白紙に戻すことを公約に掲げた候補が当選したのだ。
三田市にある三田市民病院と、神戸市北区にある済生会兵庫県病院は、直線距離で9.4キロ程度離れており、医療圏が異なる。しかし、人口減少と建物の老朽化、そして医師の働き方改革に向けた動きが背景となり、統合に向けて話し合いが行われた。その結果、22年6月、三田市が設置者、病院運営者が済生会、敷地が両病院の中間地点にある神戸市とすることで、2つの病院の統合が決定した2)。
しかし、それぞれの病院に対して、統合反対の住民運動などが起きた。特に、市内から総合病院がなくなってしまう三田市側に反対の声が多かったという。こんな中、三田市長選が行われ、統合を白紙に戻すことを公約に掲げた候補が当選したのだ。
この民意は重い。自分の街から病院がなくなることは、患者にとって大きな出来事なのはよくわかる。自分の街にすべてがそろっている病院があってほしいと思うのは当然だ。
しかし、コスト、アクセス、クオリティの3つのうち2つまでしか満たすことができないという「オレゴンルール」を考えれば、何かを犠牲にしなければならないことになる。民意はアクセスを重視した。とすると、このままではそれぞれの地区で病院を建て替えるコスト、医師が分散し疲弊することによるクオリティのどちらかを犠牲にすることになる。
この選挙結果は、医師の働き方改革が一筋縄ではいかないことを示している。
ただ、絶望するには早い。あくまで報道で見た範囲内ではあるが、今回の選挙では病院の統合こそ争点になったものの、医師の働き方改革は議論になっていない。住民はそれを知らないだけなのかもしれない。
病院の統合には、住民を話し合いの早期から参加させるなど、市民参加型手法も用いて、市民も当事者として扱うことが重要だ3)。住民説明会のような一方的なやり方では不十分なのだ。
そういう意味で、今回の選挙はいろいろな「気づき」を与えてくれたと言える。
【文献】
1)m3.comニュース・医療維新:兵庫県、足かけ約20年で11の再編統合実現へ.(2022年8月19日).
https://www.m3.com/news/iryoishin/1070468
2)恩賜財団済生会兵庫県病院公式サイト:三田市民病院との統合について.
https://saiseikai.info/hospital/future/
3)でこなび公式サイト.
http://decocis.net/navi/
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[病院統合][市長選挙]