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【識者の眼】「時代が変わると正しいかどうかも変わる」野村幸世

No.5194 (2023年11月11日発行) P.54

野村幸世 (東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)

登録日: 2023-10-31

最終更新日: 2023-10-31

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性同一性障害者が性別の取り扱いの変更をするためには、生殖腺除去手術を受けることが必要とされていたが、これが最高裁判所裁判官15名全員一致で違憲とされたことは皆様ももうご存知のことと思う。私は個人としても同意見であるし、外科医としても、本人が強制力なく同意したものではないのに、手術は行うべきではないと思う。

日本で、この生殖不能要件とともに性別変更が認められたのは2003年のことであるが、先進国で同様のことが認められたのは1980年代くらいの話であり、日本がこれを認めた2003年の翌年には一部の先進国で、今回日本が生殖不能要件を撤廃したのと同様に生殖不能要件が既に撤廃されている。

つまり、今回の日本の決定自体は評価するが、既に、先進国に比べたら20年くらい遅れているということになる。今回の違憲判断は、15名の裁判官の全員一致でなされており、国民全体の考え方の時代による変化ととらえてもいいであろう。このように、時代が変われば、正しいかどうかも変わるのである。

2007年頃、私が准教授に昇進することが内定していたときに、私の妊娠が判明した。その際、昇進は取り消されそうになった。恐らく、准教授という多忙さと重責ということと、出産、育児の両立は大変だろうという配慮であったのではないかと推察している。しかし、私は、現在でいう「マタハラ」である、と抵抗し、准教授となった。

その際、人事権を有していた上司に対し、私は「正しいかどうかも時代によって変わる」と申し上げた記憶がある。東京医大の入試女性差別問題も、女性消化器外科医の手術機会が男性消化器外科医に比べ少ないことも(No.5142)、今の考えでは人権侵害である。しかし、恐らく、以前は正しいことだったのかもしれない。

人権に関わるような時代の潮流には早く乗るのが良いと思っている。以前は正しかったことでも後の時代には正しくない場合、後の時代になってから、振り返って批判されることは免れないであろう。

また、正誤はある日突然変わるわけではないので、正しいと思ってやっていても、古いことをやっていれば、批判的な人も周囲には必ずや存在する。来年度から、医師の働き方改革が実装される。この制度をいかに搔い潜るか、ではなく、いかにこれに乗って、効率の良い働き方と仕事以外の時間の有効活用をするかを考えるべきであろう。

人権に関わるような時代の潮流に早く乗れなくなることが、実際の年齢にかかわらず、老けたということなのではないかと思う。賢い人はいつまでも若い。

野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[性別変更の手術要件][人権][時代の潮流]

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