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【識者の眼】「診療報酬改定の先に見える生存戦略」草場鉄周

No.5203 (2024年01月13日発行) P.55

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2023-12-21

最終更新日: 2023-12-21

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2年ごとに行われる診療報酬改定は、医療界にとって緊張感を伴うイベントであるのは間違いない。特に、経営規模の大きな病院は細かな点数の増減が数億円のインパクトを与えることもあり、過敏になるのもよくわかる。報酬改定は政策誘導の色合いがかなり強いので、医療政策の行方を先取りしながら、率先して改革を進めていく医療機関でなければ生き残れないという厳しい現実がある。

プライマリ・ケアの立場からは、規模の大きな総合病院よりも地域密着型の中小病院とのおつき合いが多く、病院経営者と話をするといつもこの悩みに行き当たる。地域包括ケア病棟などを中心にした地域完結型医療を支える組織に転換すべきか、専門性にこだわった小さくても尖った高度医療を提供する組織をめざすべきか、と。どちらもありうるとは思うが、その地域の住民や患者のニーズをどう読むかがすべてだと感じる。無論、プライマリ・ケアの立場からは前者の方向性の医療機関は有力なパートナーになりうるし、病院総合診療をめざす医師にとっての活躍の場になりうるので応援はしているのだが。

さて、最終的に診療報酬の本体部分が0.88%の増額という形で決着した2024年改定だが、その前には診療所の高利益率に対する財務省サイドからの指摘が強かった。私も診療所を中心とした医療法人の経営を担っている立場から、この指摘には驚きがあった。コロナ禍において有熱患者を断らず、近隣の医療機関の患者も含めて診察を続けてきた結果、コロナワクチンの接種も含めて、間違いなく19年度と比較して22年度の収入は増加している。ただ、懸命な努力に報いるための賞与の増額や診療環境改善のための設備投資などの費用も増加しており、当然、利益は収入に比例していない。また、ここ数年段階的に医師、看護師を含む職員の給与水準を高めてきたことも、そこに大きく影響する。

医療は原則的に収入が公定価格で決まるため、単価を上げる努力にはおのずと限界がある。たとえば、質の高い診療を提供しているからといって再診料を高くすることはできず、市場の動向で賃金や材料費が上下するのに合わせて報酬を調整できない。このシステムを維持するためには、ある程度経営に余裕を持たせることが前提になるだろう。それが、診療所の利益率に表現されているのだと今まで理解してきた。

とはいえ、円安や材料費高騰、戦争も含む世界の動向は予断を許さず、日本全体の財政状況が悪化すれば医療だけを聖域とすることもできないだろう。その際、医療の中で何が優先されるべきか、我々医療者も生存戦略を常に考えていく努力は欠かせない。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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