昨今、外科を志望する若者が減少しており、外科業界の人間は危機感を抱いている。既に外科医になっている者でも、後輩や自分の子どもに外科を勧めるか、というと以前よりも勧めると答える率は減少しているようである。
なぜ勧めないか、ということを聞くと、多くの外科医は仕事に見合わない収入の少なさを挙げる。勤務時間の長さは医師の働き方改革で改善されてくるであろうが、侵襲を伴う手術や処置、それをスキルとして身につけるまでの修行の長さを考えると、それらに見合うだけの他科との差別化がないのは確かに問題であると思う。これに関しては外科に限らず、侵襲を伴う処置を行う他の科も同様である。緊急呼び出しや緊急手術に対しては、少しではあるが、インセンティブがつくようにはなってきている。しかし、科としての差別化がないと、外科の志望者は減少を続ける可能性が高い。
私が外科を選択した頃はなぜ、この給料の少なさでも外科を志望する人が多かったかと、今との違いを考える。おそらくだが、当時は収入よりも仕事の達成感のほうが個人の中で重要視されたのではないかと思う。その達成感とは、手術をやり遂げた短期的な達成感とともに、その職業への憧れとかカッコよさも含んだ意味で、それを実現させた達成感でもある。そこで外科は一種、花形であったと思う。外科に憧れて、人生のチャレンジをする若者も少なくなかった。
ではなぜ、それが現代では変わってしまったのだろうか。収入を追求する、と言うといやらしく聞こえるかもしれないが、仕事に対してそれに見合う報酬を求めることは一種、当然のことであり、これは、個人生活の充実と見るべきであろう。やはり、以前よりも、自分の生活の充実を重視する若者が増えたということなのであろう。私たちの世代は、この若者の変化を「小さくなった」と考えてしまう傾向にある。しかし考えようによっては、自分の生活も顧みずに仕事に邁進していた以前のほうが異常だったのかもしれない。
とはいえ、若者の志望者が減少し、人手不足になった職種を支える現存するメンバーはたまったものではない。離職者も増え、なおさら状態が悪化する可能性は大いにある。そうなる前の迅速な対応が必要である。
わが国は制度の変更などが遅く、それゆえにいつも後手に回っているように思う。ぜひ、良き方向への迅速な対応をお願いしたい。それと同時に、現存する外科医たちは辞めていく者を最小限にするために、外科医一人ひとりを大切にし、一人も辞めていかない外科を作ることを心がけていただきたい。
野村幸世(東京大学大学院医学系研究科消化管外科学分野准教授)[外科医][個人生活の充実]