子ども虐待、高齢者虐待、障害者虐待と虐待防止に関する法律が制定されている3つの虐待について、毎年その相談対応件数が公表されている。2022年度の統計では子ども虐待が21万9170件、高齢者虐待が4万1086件、障害者虐待が1万2754件で、3虐待とも前年度までと比べ増加傾向が続いている。
それぞれの虐待について法律上の虐待の定義を見てみると、あることに気づく。
児童虐待:
保護者がその監護する児童について行う行為
高齢者虐待:
養護者がその養護する高齢者について行う行為および養介護施設従事者等が、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用する高齢者について行う行為
障害者虐待:
養護者がその養護する障害者について行う行為および障害者福祉施設従事者等が、当該障害者福祉施設に入所し、その他当該障害者福祉施設を利用する障害者又は当該障害福祉サービス事業等に係るサービスの提供を受ける障害者について行う行為
すべての虐待において、虐待者が主語になっているのである。
虐待というのは虐待を受ける者に対する重大な権利侵害だ。本来虐待を受ける者をまん中において定義されるべきである。私たちは虐待を「子ども、高齢者、障害者にとって、その行為が『安心・安全』を阻害していないか」と定義し対応を進めていく必要がある。
また、地域で虐待対応を行っていると、虐待を受ける者を中心に虐待をとらえるだけでなく、虐待の背景にある家庭全体を見る視点も求められる。たとえば、子ども虐待で通告された家庭において加害者が配偶者間暴力の被害者であったり、同じ家庭に高齢者虐待が併存していたり、高齢者虐待で通告された家庭において加害者がヤングケアラーの高校生であったりすることがある。虐待をその家庭における「家族機能不全」ととらえたアプローチが求められることが少なくない。
これからの虐待対応では、子どもだけ、高齢者だけ、障害者だけと言うのではなく、年齢縦断的、対象横断的なシームレスな対応やシステムの構築が求められる。また、様々な知見の蓄積もそれぞれの分野で行われており、各分野の壁を取り除き、培ってきた知見を共有し、現場の対応に活かしていくことが、虐待のない誰もが安心して暮らせる社会の実現に必要である。
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[子ども虐待][高齢者虐待][障害者虐待][子ども家庭福祉]