障害のある子どもたちは幼少期から生涯にわたって、障害と向き合っているわけですが、診療をしていていつも非常に驚かされるのはその適応能力の高さです。やりにくい様々な作業や運動も、自分の持ち合わせている能力を最大限活用して上手くできるようになったり、また一方でその習得の仕方は健常者には真似のできない方法や、想像もつかないようなやり方であったりします。その絶妙な実施方法は、しばしば医療者側が教えてもらい、他の患者の指導に活かすこともあります。
リハビリテーションとは「re(再び)」+「habilitation(適応する・能力を獲得する)」という意味のラテン語に由来があります。
先天性障害がある小児の場合、そもそも生まれたときは障害があろうがなかろうが当然何もできない状態であり、もともと持っていた能力が失われたわけではありません。そして成長とともに様々な能力を獲得する過程で、障害も含めて生活環境に適応し、機能や能力を伸ばしていくことになります。小児では機能や能力について再び獲得するものではないので、「re」のないハビリテーション(habilitation)と呼ぶことがあります。そして障害のある小児の場合、成長とともに障害が徐々に変化していきます。本人にとって、ある時点における身体機能を活用し、その生活環境や就学環境で必要な作業を効率的に実行できる能力の獲得は、社会生活においてきわめて優先度の高いものです。本人が自分なりのやり方を中心に、何度も繰り返して練習して獲得、あるいは習得した能力もあります。しかしその身体機能の使い方によっては、過負荷になる場合もあります。そうすると長期経過の中で、使い過ぎによる二次障害が健常者よりもより早く、また重く生じることがあります。
先天的に一方の足が麻痺しているような場合は、麻痺している足でうまく荷重できなければ、筋肉や骨・関節の活動性がきわめて低くかつ荷重刺激が少ないがゆえの麻痺側下肢の骨や筋肉の成長障害をきたします。一方で健側の足は麻痺側の機能を補うために健常者が使う以上に負荷をかけて使うことになります。たとえばケンケンで移動するほうが早いし、容易なので体が小さいうちはこれで適応していることもあります。しかし成長に伴い体重が増えてくると、片足でケンケンし続けることは当然むずかしく、活動範囲が拡大したり、まして二足歩行に比較して足関節や膝関節への負担は非常に大きかったり、姿勢不良をまねくようなこともあります。そうすると、変形性関節症や腰痛、肩こりになるリスクも高く、青年期や時に学童期などから症状や変化が始まっているような場合もあります。
このように、障害が長期的に継続することがどのような影響を及ぼし、これによってどのような二次障害をまねきうるのかというデータの蓄積を行っていく必要があります。さらにこうしたリスクをいかに回避し、予防していけるかという観点も重要です。本人や家族が今はこれが一番効率もよいし、早くできるからと選択した治療や判断について、その選択は尊重しつつも、長期的な視野に立って、成人後あるいは高齢者になったときに長期的に何が生じうるかというリスクも含めた情報提供を適切に行い、よりよい治療選択ができるよう支援していけたらと考えています。
藤原清香(東京大学医学部附属病院リハビリテーション科准教授)[ハビリテーション][障害がまねく二次障害]