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【識者の眼】「真の効率化、適正化で国民皆保険を維持」松本真人

No.5223 (2024年06月01日発行) P.37

松本真人 (健康保険組合連合会理事)

登録日: 2024-06-01

最終更新日: 2024-05-28

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まず2024年度診療報酬改定について、中央社会保険医療協議会(以下、「中医協」)の支払側委員として議論に関わらせて頂いたが、本稿は個人の認識を述べるものであり、健康保険組合連合会および中医協委員としての見解ではないことを冒頭にお断りしておく。

診療報酬自体は医療サービスの対価であるとの考えから、24年度改定では医療の質とコストに見合った評価を追求した。患者の状態と医療資源の投入量に応じた入院料の精緻化、宿日直医によるICUの評価区分の新設、生活習慣病の効果的・効率的な疾病管理及び重症化予防の取り組みを推進するための評価体系の整理・見直しが代表的な例である。

一方で、喫緊の課題として、医療従事者の賃上げを基本料の引き上げや「ベースアップ評価料」の新設によって担保する。これまで他産業で賃金が低迷する中で、診療報酬本体は基本的に引き上げが続き、医療費の自然増も考慮すれば、まずは経営者のマネジメントによる配分の見直しによって原資を賄うことが本来の姿だと考える。ただし、政府による改定率の決定において、診療報酬本体はプラス0.88%の引き上げとなり、その大宗を賃上げに充当する財源の枠が設定された。そのため、各医療機関には確実な賃上げが求められる。

また、今回は複数の医療ニーズを併せ持つ高齢者の救急搬送を課題として重視し、その解決策として「地域包括医療病棟」や「救急患者連携搬送料」を新設することになった。経営上の判断のみならず、住民の医療ニーズを汲み取って機能を選択し、地域医療の最適化に資することを切に願うものである。

このほかにも、オンライン資格確認に加えて電子処方箋の活用や電子カルテ情報の共有を促進するための「医療DX推進体制整備加算」の新設、医師の働き方改革を推進するために「地域医療体制確保加算」の継続、さらには後発医薬品とバイオ後続品の普及策としての各種の加算の充実・新設等がある。こうした加算には実績要件を設けてコストを補償するという一定の妥当性はあるものの、診療報酬によって医療機関の取り組みを誘導する側面が強い。医療の質の向上と効率化が両立できるよう、患者への影響を含めて実態を把握し、目的通りの成果が出なければ、早急に修正すべきと考える。

また、今回は介護報酬との同時改定ということもあり、コロナ禍の経験をふまえた、地域における協力医療機関に関する体制整備の推進も含めた、医療機関と介護保険施設等との連携の強化等も盛り込まれた。

少子高齢化の進展、生産年齢人口の急激な減少、そして医療の高度化に伴い、医療保険財政、医療資源ともに逼迫した状態にあり、この状況は当分続くことが予想される。国民皆保険制度を維持するためにも、“真の”効率化・適正化が求められる。

松本真人(健康保険組合連合会理事)

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