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【識者の眼】「スウェーデンにおける『移民医師』」渡部麻衣子

No.5225 (2024年06月15日発行) P.56

渡部麻衣子 (自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)

登録日: 2024-06-04

最終更新日: 2024-06-04

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「医師不足」の防止は、長年、各国に共通の課題であり続けていますが、欧州においては特に近年、医師の高齢化に伴い「医師不足」への不安が高まっています。WHOの2022年の報告によれば、欧州では今や医師の40%以上が55歳を超えています1)。こうした中、スウェーデンでは、医師不足は長年問題として認識され、そのための対策が試みられてきました。その一つが海外からの医師の積極的な受け入れです。EU政府の報告によれば、2020年時点でスウェーデンの医師の34%が海外からの移民です。人口に占める移民の割合は15%なので、移民医師の割合は一般群と比較してかなり高いと言えます。

EU諸国間では就労ビザが不要なので、医師も移動しやすい面はあります。しかしスウェーデンで働くのは、言語の壁があるため実際にはなかなか大変です。特に医師の場合、働きはじめる前にC1と呼ばれるスウェーデン語検定試験に合格する必要があります。その他の職業であれば、1からスウェーデン語を学びながら働きはじめられるのに比べると、かなり高いハードルと言えます。またEU諸国外からの移民の場合には、スウェーデンの医師免許を取得するための修学も別途求められます。それでもスウェーデンで移民として働く医師がこれだけ多い理由は、単純に収入の高さだけではないように思われます。実際、開業医のいないスウェーデンでは、医師の平均年収はその他のOECD各国と比べてもさほど高くありません2)。Sturessonら(2021)の研究では、調査対象となった移民医師の全員が、専門を選択するにあたり考慮したこととして、「家族生活との兼ね合い」を一番に選択しています3)。このことは、移民医師を受け入れるにあたり、ワーク・ライフ・バランスに考慮した労働環境を整備することの重要性を示唆しています。

さて医師不足の進む欧州には、スウェーデンのように医師の受け入れに「成功」している国がある一方で、ギリシャのように、医師の流出によってさらなる医師不足が生じている国もあります4)。欧州の経験は、世界で医師不足が進むと、国レベルでの医師の「偏在」が問題となりうることを示しています。そのとき、日本は医師の「受け入れ先」と「流出元」のどちらの側にいるだろうということを、考えずにはいられません。

【文献】

1)WHO公式サイト:“Ticking timebomb:Without immediate action, health and care workforce gaps in the European Region could spell disaster.”(2022年9月14日)

2)OECD iLibrary公式サイト:Health at a Glance 2023:OECD Indicators Remuneration of doctors.

3)Sturesson L, et al:Hum Resour Health. 2021;19(1):63.

4)Ifanti AA, et al:Health Policy. 2014;117(2):210-5.

渡部麻衣子(自治医科大学医学部総合教育部門倫理学教室講師)[医師の偏在ワーク・ライフ・バランス

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