No.5227 (2024年06月29日発行) P.58
伊藤 香 (帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)
登録日: 2024-06-19
最終更新日: 2024-06-19
先ほど、第29回日本緩和医療学会学術大会での4学会合同セッション「救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン改訂〜緩和医療学会を加えた4学会のガイドラインへ」の座長を終えて、帰りの新幹線でこの原稿を書いている。
前々回(No.5220)、前回(No.5223)と、“shared decision making(SDM)”、“time limited trial(TLT)”といった、改訂版ガイドラインに登場する新しいキーワードをとりあげた。これまでも指摘してきたことだが、適切な医学的判断とSDMのもと、TLTが施行され、生命維持治療の終了が選択された後に必要となる緩和ケアに関して、日本の医療現場では十分浸透していない状況がある。そのため、「実際、終了すると決まったが、その後どのようなケアをすればよいのかわからない」ということが、患者や家族が望まない延命治療が現場で継続されてしまう一因になっているように見受けられる。実際、全国の集中治療を提供している施設の責任医師873名を対象にしたアンケートでは(回答率50%)、54%が症状緩和のためのプロトコールが1つもなく、さらに、終末期の症状緩和プロトコールがある施設は5%未満と低率であった1)。
そこで、今回のガイドライン改訂では、従来の3学会(日本集中治療医学会、日本救急医学会、日本循環器学会)に加えて日本緩和医療学会に参加を依頼し、集中治療終末期の中でも、特に生命維持治療の差し控え/終了時に必要な緩和ケアに関してのガイダンスを入れることを目玉としている。なぜなら、もしその点を明記せずに生命維持治療の差し控え/終了を述べたなら、1990年代に発生した東海大病院事件や川崎協同病院事件のような、集中治療終末期に関わる刑事事件のような事例が繰り返されてしまう恐れがあるからだ。
集中治療室における緩和ケアには大きく3つのモデルがあると言われている。1つ目はprimary palliative careと呼ばれる緩和医療専門医ではない担当医によるもの、2つ目はspecialty palliative careと呼ばれる緩和医療専門医によるもの、3つ目はその両方である。日本の集中治療の現場での緩和ケアが未発達な中、救急・集中治療医がprimary palliative careの技量を身につけることが重要であることは言うまでもないが、緩和医療専門医に当分野に対する関心を高めて頂き、生命維持治療の差し控え/終了という、患者・家族にとっても、医療従事者にとっても難しい局面に、specialty palliative careを適用できるようになるためにも、このセッションを日本緩和医療学会学術大会の場で持たせて頂いた意義は大きいと思っている。当セッションは、7月22日〜9月30日までオンデマンド配信される予定となっている。ぜひ、ご参照されたい。
【文献】
1) Igarashi Y, et al:J Intensive Care. 2022;10(1):18.
伊藤 香(帝京大学外科学講座Acute Care Surgery部門病院准教授、同部門長)[primary palliative care][specialty palliative care]