理化学研究所と東京大学医科学研究所の共同研究グループが4月、日本人の全ゲノムシーケンス情報を分析し、日本人集団の遺伝的構造と新たな特徴を『Science Advances』に報告した。この研究結果と臨床応用の可能性について、理研生命医科学研究センターゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダーに聞いた。
私たちの共同研究グループは、バイオバンク・ジャパンから提供された全ゲノム情報を分析しました。使用したデータセット・JEW-ELはバイオバンク・ジャパンが、全国7地域(北海道、東北、関東、中部、関西、九州、沖縄)の医療機関に登録された3256人に全ゲノムシーケンスを行った包括的なデータです。
その結果、沖縄とそれ以外の地域では遺伝構造が明確に異なることを観察しました。本州内では東北系と関西系にわけられ、日本人の祖先の起源は、縄文系、関西系、東北系の3つの要素によって説明される可能性が示されています。
これまでは、縄文時代に日本に来た狩猟採集民族と大陸から弥生時代に来た稲作移民の混血により現代の日本人が形成されたとの「二重構造モデル」が定説でした。しかし最近、国内の遺跡から出土した人骨の全ゲノム解析で、縄文人集団と、弥生時代に北東アジアから来た集団、古墳時代に東アジアから来た集団の混血により日本人が形成されたとの「三重構造モデル」が唱えられました。
この先行研究の古代骨全ゲノム解析はサンプル数が少なかったため、私たちの研究では、縄文、東アジア、北東アジアの現代と古代の遺伝データを、現代日本人の全ゲノム解析の結果とともに分析しました。その結果、縄文系の祖先比率は沖縄が最も高く、ついで東北で高かったのに対し、関西で最も低い傾向がみられました。
さらに、中国、韓国、日本の古代人ゲノムデータを用いて、東北と関西の違いを評価したところ、関西人と中新石器・後新石器時代の古代中国人との間に密接な関係が見られました。一方、東北人は縄文人、そして縄文系比率が高い沖縄・宮古島の古代日本人ゲノムや朝鮮半島南部から出土した4~5世紀の古代ゲノムとも高い遺伝的親和性がありました。つまり、関西系は東アジア、東北系は北東アジアと縄文人の影響が強く、今回の大規模な現代日本人全ゲノム解析情報で三重構造モデルの信ぴょう性が高まったわけです。