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【識者の眼】「オピオイド投与とナルデメジンによる便秘予防」西 智弘

No.5234 (2024年08月17日発行) P.68

西 智弘 (川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)

登録日: 2024-08-06

最終更新日: 2024-08-06

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緩和ケアの臨床において、オピオイドを使いこなすことは重要である。

その大きな副作用の1つとして便秘があるが、従来はこの便秘に対し酸化マグネシウム製剤や刺激性下剤などを用いることで、その予防を行ってきた。しかし近年では、末梢作用型μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA)であるナルデメジンなどが登場し、従来の方法よりも便秘がよりコントロールしやすくなっている。

そもそも、PAMORAの臨床試験では「オピオイド鎮痛薬が2週間以上投与され、かつその投与量が安定している患者」に対する有効性を示したものからスタートしたため、発売当初は製薬企業の方々も「オピオイド開始と同時にナルデメジンを開始しないで下さい」などと宣伝していた。しかし、実臨床においては「どうせ便秘になるのだから、それであればなるべく早めにナルデメジンを開始したほうがよいのでは?」と考える医師によって、同時開始も行われるようになっていった。

そんな中、2つの臨床試験が日本から発表された。1つは、ナルデメジンと酸化マグネシウムの予防投与を比較したランダム化比較試験1)。そしてもう1つは、ナルデメジンとプラセボの予防投与を比較したランダム化比較試験だ2)。これらの結果では、ナルデメジンは対照群と比較して有意に便秘の予防効果を示し、さらに後者の試験ではオピオイド導入時の嘔気も改善したことが示された。そして、どちらもナルデメジン予防投与によって有害事象の増加は認められなかった。

少し前の教科書には、オピオイドの導入時には嘔気予防と便秘予防のため、制吐剤と便秘薬数種類を導入することが常識として記載されていた。しかし、近年研究が進み、制吐剤も必須というわけではないことが示され、さらに今回の試験結果によってナルデメジン予防投与さえ行えば、他に処方する薬剤は必要ないかもしれない、という形へ臨床が変わってきている。制吐剤や便秘薬の屯用は、念のため出しておいてもよいかもしれないが、ただでさえ終末期は投与薬剤が増える中、定期薬が1種類だけでよくなる、というのは大きな進歩だ。

「ご飯は食べる気がしないのに、薬は10錠以上。薬がご飯みたいなものだね」と、自虐的に笑う患者さんの顔を、見なくて済むようになる日も近い。

【文献】

1)Ozaki A, et al:Cancers(Basel). 2022;14(9):2112.

2Hamano J, et al:J Clin Oncol. 2024;42(17):suppl.(Meeting Abstract:2024 ASCO Annual Meeting Ⅱ)

西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[PAMORA][酸化マグネシウム製剤制吐剤][終末期

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