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【識者の眼】「生活習慣病管理料を通じて見えてきたもの」草場鉄周

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2024-09-26

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本連載でかつて「外来診療の質を高めるために」(No.5215)と題して、2024年度の診療報酬改定を扱った。その際、生活習慣病に関わる疾病の管理として包括払いの色彩が強い生活習慣病管理料が意味することを論じた。その後、私が運営する医療法人の9つのクリニックで6〜9月まで4カ月弱算定を続けているが、その実践を通じて見えてきたことをお伝えしたい。

特定疾患療養管理料から外れた生活習慣病については、生活習慣病管理料のⅠあるいはⅡの算定が必要となるわけだが、私たちは医療管理上、頻回の定期検査を必要とする一部の患者以外はおおむねⅠを算定する方針とした。ただ、患者の自己負担が増えることになるため、クリニックの医師はもちろん看護師や受付などすべてのスタッフが、この自己負担増加の持つ意味を語れるように入念に準備を重ねた。その際の文章を一部抜粋する。

日本の外来診療では生活習慣病に対して本人の健康観や生活状況をふまえて診療計画を策定し丁寧な医療面接で行動変容を促す診療を提供しようがしまいが、一律、再診料と特定疾患療養管理料を算定することしかできず、3分診療をしようと10分丁寧な診療をしようと収入は同じという状況が長く続いていました。我々のような、医師を複数名雇用して、比較的ゆとりのある職員体制を整備し、無駄な検査せずに、〈どんな健康問題にも丁寧に対応する〉ことを堅持する医療機関としては、外来部門の単価(1人当たりの収入)の低さは明らかで、長年にわたって歯がゆい思いをしてきました。
(中略)どうか、質の高い医療をこれまで通りに安定して提供し続けるために、誠意を持って説明し、ご理解を得るようにして下さい。現場で一人ひとりの患者さんに対応する職員の皆さんの苦労は大きいと思いますが、自己負担に見合うだけの高い質の診療を提供するという前向きな姿勢で今後の対応をどうかよろしくお願いします。

その結果、ほとんどの患者が自己負担の増額に納得をして、「むしろ丁寧に診てもらえてありがたい」「今までが安すぎましたよ」といった好意的な反応もめずらしくなかった。日本社会全体で物価高騰が進行しているという追い風はもちろん大きかったが、質の高い診療には対価が求められるという考え方が十分に患者にも伝わったことは我々にとっても大きな自信につながった。

最終的な患者の受け止めを評価するには1年ぐらいの期間が必要と考えているが、スタートダッシュは期待以上の展開となった。日本のプライマリ・ケア外来診療の質を高めるためにも、こうした診療報酬改定の方向をうまく活用しながら、現場でしっかり住民・患者とコミュニケーションを図っていき、診療の質向上と良好な経営を共に追求することがますます求められるだろう。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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