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【識者の眼】「現実が導いた地域医療構想」草場鉄周

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2024-12-27

最終更新日: 2024-12-27

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筆者が家庭医として働いているのは北海道の室蘭・登別という地域である。人口は両市で合わせて12万人程度だが、高度急性期医療や救急医療に対応する病院が3箇所あり、切磋琢磨してきた歴史がある。

かつて筆者は地域の一番病院であった私立のA病院で臨床研修を受けた経験があり、その頃はA病院を中心に医療機関もまとまっていくのだろうと勝手に期待していた。しかし、ここ10年の間に、三番手の私立のB病院がお家騒動で力を失うA病院を尻目に急成長し、二番手の市立のC病院をも越えて、今は一番病院として存在感を増している。

そんな中、地域医療構想が唱えられ地域の人口推移や年齢層の変化に応じた病院の機能分担の重要性が示されたわけだが、当然、室蘭・登別ではこの急性期3病院の位置づけに焦点が当たった。

何度か市長や医師会から役割分担が提示されたが、頑として呑まない各病院の姿勢は過去の栄光にこだわり、将来展望にあえて目を背けるような印象を地域に与えるものだった。その間に3病院にそれぞれ配置された専門診療科の医師達は集約化をめざす大学医局からの引き上げにあい、櫛の歯が欠けるように徐々に手薄になっていった。家庭医としては総合病院との連携が診療科ごとに複雑化し、多科受診する患者にとっては、通院負担は増すばかりであった。

そこに変化をもたらしたのは奇しくもコロナ禍であった。パンデミック中の補助金で不都合な現実から逃避できていた病院は、コロナ禍終焉とともに一気に現実に叩き起こされた。患者数の大幅な減少と収入の落ち込み、物価高と賃金上昇による経費の大幅増加はダブルパンチで経営を一気に悪化させている。

それが、ついに3病院を動かすことになる。もはや過去の幻想では生き残ることすら叶わない現実の中で、病院の役割を変えるための公費の活用と人員の最適配置、適正な病床数の設定などに取り組む覚悟が示された。しかし、既に積み上げられた負の遺産は少なくない。10年前に動けば、もっと出血は少なくて済んだのではないだろうか。ただ、人間と同じく組織にとっても惰性を断ち切ることは容易ではないのだとも思う。

将来予想や推計ではなく現実がもたらした地域医療構想。次は診療所も含めた外来診療や在宅医療を統合・効率化するステップに入ってくるようだ。医師の地域偏在、診療科偏在の議論も活発である。次こそは現実に押し切られるのではなく、想像力で一歩先に進む地域が増えてほしいと切に期待する。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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