2024年1月1日に、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」(以下、認知症基本法)が施行された。
この認知症基本法の目的は、「認知症の人が尊厳を保持しつつ希望を持って暮らすことができるよう、認知症施策を総合的かつ計画的に推進」とされている。
さらに、認知症施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、2024年12月3日には、認知症施策推進基本計画を閣議決定した。この基本計画の中で「新しい認知症観」として、“認知症になったら何もできなくなるのではなく、認知症になってからも、一人一人が個人としてできること・やりたいことがあり、住み慣れた地域で仲間等とつながりながら、希望を持って自分らしく暮らし続けることができるという考え方”と示されている。
認知症基本法の中で示されている8つの基本理念の中でも1番はじめに「国民の理解の増進」が挙げられており、古い認知症観を改めることが重要であると国が認識していることがうかがえる。
古い認知症観では、「認知症になると何もわからなくなる」「認知症になったら大変だから予防しなければ」と認知症を恐れる感覚が強い。これによって早期発見が遅れ、日常生活の中での失敗が増え、失敗を恐れて引きこもった生活となり、認知症の進行が加速するという負の循環がしばしば生まれている。
これを新しい認知症観に改め、認知症を過度に恐れず早期発見して、適切な支援を受けながら日常生活を送り、役割や楽しみを持った生活を送ることができることが重要であると筆者も考えている。このため、古い認知症観を改めることを目的に、「早合点認知症」という書籍を出版することとなった。
人口が減り続けるわが国において、認知症の状態となる人は2060年まで増え続けるという推計があり、認知症の人は社会の多数派となることがわかっている。今までのように、「認知症の人が起こす問題を、認知症の人以外で対処する」といった考え方では社会が持たなくなることを懸念する。
新しい認知症観へと考えを改め、認知症の人が力を発揮できるような認知症フレンドリーな社会へのアップデートを行っていきたいと考えている。
内田直樹(医療法人すずらん会たろうクリニック院長)[新しい認知症観][社会の多数派]