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【識者の眼】「不十分な口腔ケアは万病の元⁈」岡本成史

岡本成史 (大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)

登録日: 2025-02-21

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口腔ケア〔日常の歯磨きによる一般的なものと、3〜6カ月ごとに歯科医院を受診し、歯科医療従事者に施術してもらうプロフェッショナルなもの(定期歯科健診、歯磨き指導、口腔清掃、スケーリング、歯科治療など)を合わせたもの〕を怠ると誤嚥性肺炎の発症リスクが上昇することを前稿(No.5261)で述べた。最近、口腔ケアにより良好な口腔衛生状態を維持することが全身の健康維持や疾病発症リスクの軽減に重要であることが強く示唆されている1)。さらに、そのことをサポートする内容が、先日某テレビ番組でも紹介された。

唾液、口腔粘膜、舌、歯ならびに歯周組織には、おびただしい種類の微生物が共生し、「口腔内フローラ」を形成している。適切な口腔ケアにより口腔衛生状態が良好に保たれているとき、口腔内フローラの微生物群が口腔粘膜における免疫力保持や侵入を試みる病原体に対するバリア機能を果たす。

不十分な口腔ケアにより、ミュータンスレンサ球菌が産生する非水溶性グルカンが様々な種類のレンサ球菌や歯周病原細菌などを取り込み、「歯垢」を形成する。そして、歯垢が歯面や歯周組織などに付着、蓄積すると、口腔内フローラ中の歯垢内細菌種の存在比率が上昇し、むし歯(う蝕)や歯周病を発症する。これらの発症予防や症状進行を防ぐためには、頻繁に歯垢を除去する必要があり、その目的として一般的な歯磨きによる口腔ケアを行う。しかし、それだけで歯垢を完全に除去することは不可能であり、プロフェッショナルの口腔ケアが必要になる。

不十分な口腔ケアが長期間続くと、歯垢がどんどん蓄積していくとともに、歯垢内で増殖する各種細菌が歯周病の罹患により破壊された歯周組織に露出している毛細血管の出血部分から侵入し、血流にのって全身をめぐる。そして、全身に拡散したこれらの細菌群が産生、放出する病原因子などにより、心臓疾患や循環器疾患、糖尿病の悪化、認知症、さらには口腔や消化器のがんの発症、抗癌剤投与や放射線治療後の口腔粘膜症の発症に関与する。あるいは、歯垢成分や歯垢中の細菌を多量に含む唾液の呼吸器官内への誤嚥により誤嚥性肺炎発症の原因となる。

口腔ケアの目的は、一生自分の歯で食べる、不自由なく話す、口元の審美性を維持する、などといったQOLの向上だけにとどまらず、中高年以降に発症しやすい全身疾患の発症予防や症状進行の阻止、治療効果の向上などにも拡がりつつある。また、全身疾患に対する予防・治療での医科歯科連携の重要性が増しつつある。

不十分な口腔ケアは万病の元。身に覚えのある方は、歯磨きを毎日しっかりと行うとともに、歯科医院でプロフェッショナルの口腔ケアを受けることを強くお勧めする。

【文献】

1)小川智久:Modern Media. 2017;63(8):179-85.

岡本成史(大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)[微生物学][口腔ケア医科歯科連携

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