連夜にわたる日本勢のメダルラッシュに沸くリオデジャネイロ五輪。しかし現地から届く映像では多くの会場で空席が目立った。開催前から指摘されていた治安の悪さや公衆衛生への不安から、外国人旅行者の集客に苦労したことが窺える。
日本政府は成長戦略の柱として、“観光立国”を打ち出している。東京五輪開催の2020年には外国人旅行者4000万人、30年には6000万人を目指す。医療面では外国人患者受け入れ体制の構築が急務で、20年までに外国人の急患にも対応できる医療機関を全国で100カ所整備する方針だ。
一方、医療機関には頭の痛い未収金問題が浮上する。旅行保険に加入していない外国人旅行者は多く、その場合医療費は全額自己負担。現金の持ち合わせがなければ、帰国してからの回収は事実上不可能だ。未収金への不安は医療機関が外国人旅行者の受け入れに積極的になれない主な要因の1つとされ、公的な対策の拡充が求められる。
五輪が開催される真夏の東京の暑さは厳しい。外国人旅行者に熱中症が多数発生した時の対応を想定しておくことが必要だ。何らかの理由でたらい回しなどの事態が起きてしまえば、観光立国への弾みをつけるはずの五輪が、外国人旅行者を日本から遠ざける端緒となってしまう恐れもある。
東京五輪は「すべてのアスリートが最高のパフォーマンスを発揮し、自己ベストを記録できる大会」をコンセプトに掲げる。そのためには、選手と大会を盛り上げる観客が安心して過ごせる環境整備が不可欠だ。医療機関と外国人旅行者の双方にとっての“安心”を担保する仕組みを構築することが、五輪の成功のみならず観光立国への近道となるのではないだろうか。