医療等IDに関する議論が本格化している状況を踏まえて、本稿では、医療等IDにまつわる倫理的問題を自律尊重の観点から吟味し、医療情報の共有に関する同意に実効性を付与する概念枠組みを日本医師会において行われた議論に沿って提示する。
2015年、個人情報保護法の改正やマイナンバー法の制定を経て、マイナンバー制度が導入された。改正個人情報保護法においては、人種、信条、社会的身分、犯罪の経歴などと共に、病歴も特に慎重な取扱いが求められる要配慮個人情報に規定された。一方、マイナンバー法の下では特定健診・保健指導に関する事務や、予防接種履歴の連携等にマイナンバーを利用することが可能とされた。
マイナンバー制度の導入が進められていた当初、医療等の分野(介護分野を含む)でもマイナンバーを用いることが検討されていた。しかし2012年に行われた厚生労働省「社会保障分野サブワーキンググループ及び医療機関等における個人情報保護のあり方に関する検討会」では、医療等分野では異なった制度を用いることが議論され、7月には「医療等ID」の導入が言及された1)。2014年11月には三師会の連名で、マイナンバーの医療等分野での使用に反対する「医療等IDに係る法制度整備等に関する三師会声明」が出され、改めて医療等分野でのみ用いられる番号の必要性が訴えられた2)。同年5月から厚生労働省内でマイナンバー制度の利用を検討していた「医療等分野における番号制度の活用等に関する研究会」も、同年12月に医療等分野ではマイナンバーとは異なる番号を導入すべきとする中間まとめを出した(翌2015年12月に報告書を公表)3)。
2016年6月には、日本医師会の医療分野等ID導入に関する検討委員会が『医療等分野のIDのあり方に関する報告書』を公表した4)。この報告書では、基本的な考え方として、(1)1人に対して目的別に複数の医療等IDを付与できる仕組み、(2)本人が情報にアクセス可能な仕組み、(3)情報の突合が可能な仕組み、(4)医療等IDに関しての法整備、という4項目について検討することが提示された。また、医療等IDの具体的な利用イメージとして、国民健康保険を含むすべての保険者に関して被保険者の資格確認を資格確認用番号を用いて統一的に実施する場面が詳細に提示された。
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