遠隔医療は,通信で伝わる診療情報により遠隔側の患者や医師を指導する診療行為である
遠隔医療は新しい手法であり,対象とすべき医療行為の洗い出しや倫理に関する検討が途上である
プライバシーの保護,情報セキュリティの保全などの情報マネジメントが非常に重要で,検討すべき課題は少なくない。今後,さらなる研究が期待される
2015年8月10日,厚生労働省医政局は事務連絡を発行し,遠隔診療の実施対象や制度などの情報を整理した1)。この前後から,テレビ電話で患者を診療する遠隔医療への社会的関心が急速に高まり,多くの医師が情報を求めはじめ2),関連事業を手がける企業も活気づいた。遠隔医療は一部の診療科や施設では20年以上前から続いており,地域に根づいた取り組みも少なくない。しかし,社会においてはいまだに,遠隔医療に関する十分な情報が流通しているとは考えにくい。今後の参入者のために,遠隔医療で何ができるか,何に留意すべきかなどの基本的な情報の普及が重要となる。
遠隔医療は,情報通信機器や通信サービスに大きく依存する。機器や通信コストへの負担感が小さくなったのはこの10年以内であり,それまでは情報通信に関わる工学的研究がウエイトの大部分を占めていた。そのため,医学上の基本事項にまで研究が行き届かず,医療者が必要とする基礎的情報である手法や対象,有効性からセキュリティやプライバシーに至るまでの情報が不足している。そこで本稿では,これらに関する最近の研究成果3)をもとに,医行為の範囲,制度の扱い,倫理やプライバシー,セキュリティについて検討し,遠隔医療の概観を示す。
遠隔医療は,医師が通信を介して行う診療行為である。広義には看護師によるテレナーシング,薬剤師による遠隔服薬指導,保健師による医療外の遠隔健康指導,介護なども併せて議論することがあるが4),本稿では医師の行為に絞って検討する。
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