去年の秋、京都の繁華街をぶらぶらしていて、白髪の男性が奥さんと思われる人と手をつないで歩いているのを見かけた。すごく自然で、映画のシーンのようにかっこよくて、思わず見とれてしまった。顔を見て、あれっ?と思った。北山修とちゃうの。
その瞬間、「あの素晴らしい愛をもう一度」が脳内を駆け巡ったのは言うまでもない。その北山修─といっても声をかけた訳じゃないのでご本人かどうかわからないのだが─の自伝が出た。迷わず買った。
自伝というのは、自分のことを書いているからといって正しいとは限らない。しかし、きたやまおさむの『コブのない駱駝』はひと味違う。パフォーマーとしての「きたやまおさむ」について、精神分析を専門とする医師「北山修」が、主観客観と立ち位置を入れ替えつつ、さらに時にはその両方を遠くから眺めるかのように綴っていく。
京都府立医大在学中に加藤和彦らと出したレコードの「帰って来たヨッパライ」が大ヒット。一躍マスコミの寵児となるも、状況を受け止めきれず、わずか1年足らずで解散。復学した後、札幌医大、ロンドン大学を経て九州大学の教授に。その間、時に芸能活動をおこないながら、精神分析関係の本もたくさん出版しておられる。
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