No.4688 (2014年03月01日発行) P.3
天本 宏 (医療法人財団天翁会理事長)
登録日: 2014-03-08
最終更新日: 2017-09-08
東京都の人口推計において、総人口数は2015年をピークに減少していく。64歳以下は2010年の1018万人から次第に減少していき、2040年には819万人と急速に減少する。逆に、75〜84歳の高齢者は2015年に106万人、2040年は124万人に増え、85歳以上の超高齢者は2040年90万人と急速に増え続けていく。さらに、90歳以上の人口は2040年には56万人に増え、その後20年間は減らない。
医療の対象は構造的に壮年期から超高齢者に大きくシフトしていく。高齢者が増えるとともに救急搬送者数も急速に増え、しかも軽症者が増えていく。多くの重症高齢者は、そのまま入院し続け半年後には亡くなっている。現状の救急搬送・病院完結型医療から脱却し、訪問診療を取り入れた地域に基盤を置く医療提供体制に変革していかねばならない。それには、「訪問看護により治療が行える」といった権限移譲も必要となる。また、救急医療現場における高齢者へのトリアージの導入といった改革も迫られている。
長寿とともに認知症疾患はコモンディジーズとなり、90歳以上の発症率は60%、95歳では80%と言われている。そして、高齢期の死亡者数が増えていく多死時代をも迎える。「長寿で人生終末の場、死に場所が病院である」ことは、超高齢者にとっても認知症疾患患者においても決して望ましくはない。超高齢者に対する救命・延命が、治療優先医療、病院完結型医療といった「生存目的の医療」が主流となっている現状は改革していくべきである。人としての尊厳を重視した医療、対人サービスへと変革されるべきである。
これから超高齢期を迎える団塊の世代の多くは、90歳、95歳までの人生設計が必要となる。90歳前後の長寿を想定し、「お任せ医療、お任せ介護からいかに脱却していくか」といった視点での国民的議論を期待したい。そして、健康寿命を限りなく伸ばしていく「後始末から前始末」の医療が、これから高齢期を迎える人々とともに、かかりつけ医にとっても大きなテーマとなろう。
巨大な逆ピラミッド型の人口構成であるわが国の人口オーナス(onus)現象は、世界、人類に例を見ない現象であり、国民も医療人も覚悟が必要となろう。モデルなきは原点回帰すべきである。すなわち、全人的・総合的・包括的プライマリケアを医療提供の川上、主流に、かつ日常生活圏域に築いていく改革を先行目標に、医療人自ら取り組んでいきたいものである。自然科学である地域医療において自然の摂理に沿う老衰・自然死を創造できないものであろうか。