シチリアの小さな村にある映画館を舞台に、映写技師の老人と少年の心の交流を描いた感動作。DVD、Blue-rayがアスミック・エースより発売されている
私が高校生まで住んでいた、別府のはずれの亀川という地区は、別府市には含まれてはいるものの明らかに「田舎」で、別府の中心部に行くとき、地域の住民は皆「別府に行く」と言っていた。そこは別府文化圏ではない、田舎なのだ。
丁度、イタリア映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のように、当時の映画館は住民の憩いの場であり、結構客が入っていた。私はテレビ隆盛期に小中学生時代を送ったため、そのあおりをもろに受けた映画産業の衰退期を目の当たりにしてきた。あっという間に亀川の映画館はパチンコ屋に姿を変えたし、別府の繁華街の映画館も減っていった。
そんな中で、中心街には私が中学生くらいの頃まで、よくアメリカ軍の軍艦が寄港しており、それを当て込んでか小さな洋画館があった。兄が文学青年だったので、私は数々の翻訳本に触れる機会もあったし、定期的に購読していた映画雑誌「スクリーン」には衝撃を受けた。洋画館で、雑誌で垣間見たハリウッドやヨーロッパの名作映画、特にその中に出演している女優の立ち振る舞いを目の当たりにして心を奪われ続けた。
「ニュー・シネマ・パラダイス」のラストシーンには心を奪われる。それは映画のクライマックスシーンの集大成である。グロリア・スワンソン、グレタ・ガルボ、イングリッド・バーグマン、ソフィア・ローレン…、数々の往年の大女優が、感極まって男優の胸の中に落ちていく。映画で最も心を奪われるシーン、それは何と言っても抱擁のシーンである。
恋は有限だからはかなくも美しい。だから抱擁のシーンはとりわけ観るものの心を捉えて離さない。