痛がり方というのは千差万別で,なかなか区別がつかないことも多い。その点で,「らしさ」がいつも「らしい」と言えないこともあり,あまり型にはめてしまっても間違いのもとになるかもしれない。
まずは,その点で,「らしさ」の理解が必要かもしれない。
オノマトペとして考えてみると下記のようになるかもしれない。ただし,地域によっては方言などで,もっと特異的な表現になる場合があるかもしれない。
・鈍い痛みは,管腔臓器の異常であったり,腫瘤性病変を疑うきっかけになる。
・鋭い痛みは,粘膜病変を示唆することが多く,炎症性疾患を疑うきっかけになる。
間欠痛の場合,間欠期には痛みが消失することが多いが,患者さんによっては「痛みは0にはなりません」といわれる場合もあり,間欠痛「らしくない」と判断してしまうかもしれない。
特に胆石発作の場合,教科書的に胆石疝痛という理解をしていると,あたかも,間欠的な痛みになると理解している医師も多いが,実際には痛みの強弱はそれほど大きくないことが多く(図1),明確な疝痛と考えないほうが実臨床に合っていると思われる。
持続痛のほうが,緊急性が高い疾患が多く,急性腹症らしい印象がある(表2)。つまり,「詰まる,捻れる,裂ける」は持続痛につながりやすい。
内臓痛+間欠痛➡消化管由来
鋭い,鈍い,間欠,持続で分類してみたが,これが結果的に,内臓痛・体性痛の理解につながり,「らしさ」を表現しているものになっている。人間は痛みを頭,神経で感じているわけであるから,おのずと「神経を制するもの,痛みを制す」といった感じになる。
それでも,腹痛診療はそうは簡単にはいかない。難しくさせているのは,その「らしさ」がいつもあるとは限らない点にある。また,痛みの部位と原因となっている臓器の部位が必ずしも一致しないことは,初学者にはきつい点である。腹痛や圧痛を認めた部位が,いつも病変のある部位であれば診断はきわめて簡単だが,いつもそうはいかないのが,この急性腹症の醍醐味でもある。
星座ではないが,いつも快晴とは限らないし,ピッチャーがいつもストレートで来てくれたら,そんな簡単なことはない。フォークボールを投げてくることもあるからである。
いわゆる突然発症の「つまねんぱ」はどちらにも当てはまるので,どっちが急性腹症らしいという議論にはならない。この両方を制することが急性腹症を制することになるが,「らしくない」ときに,どこまで想像しながら進めていくかも鑑別スキルのステップアップの上で重要である。
関連痛の存在が,診断を難しくしているケースもあるかもしれない。
例として,急性膵炎の際に背中に放散痛が起こったり,急性胆囊炎のときに右肩などに痛みを感じることがある。典型的なものについては,逆にそういうものだと覚えてしまうことも解決の糸口になるものと思われる。デルマトームの理解もまた必要であり,頭を使うことには違いない。
患者の訴える痛みの部位が解剖学的に説明困難な場合は,関連痛を考えるべきである。
脊髄に入力された痛み情報を,脳が「痛みは内臓ではなく皮膚からだ」と誤認識することによって引き起こされるものといえる。例として,デルマトームに従うと,鎖骨~肩関節レベルの痛みはC3-4に一致するが,そのレベルに関連痛をもたらす臓器には,食道,肝臓,胆道,膵臓があり,また,上腕外側の痛みはC5に一致するが,そのレベルに関連痛をもたらす臓器として膵臓がある。
腹痛の部位は,大きなヒントになることには違いない(図2)。
それこそがまさに「らしさ」である。
5つの部位に分けて考えていくとしても,関連痛が起こると,部位に悩まされることがある。
また,虫垂炎を例に挙げると,虫垂の位置にはバリエーションがあり,必ずしも右下腹部が痛みの最強点とならない場合もある。尿管結石などは,さすがに左右が入れ替わることはないが,小腸や大腸は様々な場所に位置しており,どこで何が起きてもおかしくない。
「らしくない」を考える上で,きちんと「らしさ」も押さえておきたい。急性腹症であるので,消化管,肝胆膵,泌尿器,産婦人科領域は押さえていくとして,その他の鑑別診断がピットフォールになるかもしれない。その点でひろく鑑別診断は考えていくべきだと考える。もちろん,区分けが完璧になることはなく,「らしくない」ときには,お隣りの領域を鑑別に加えて対処するなどの応用も必要である。
ここは,胃・十二指腸の独壇場のように想起するかもしれないが,胸部も混ざってくる。
▶らしくない⇒急性腹症であるため,心臓・肺は「らしくない」と考えるかもしれないが,やはり,これらの病気の除外は,きわめて重要である。
基本的には肝胆膵の主戦場ではあるが,肝臓は基本的には「沈黙の臓器」と呼ばれ,病気があっても痛くないことが多い。その点では,ここではかなりの臓器が絡んでくると考えておくべきである。
▶らしくない⇒帯状疱疹,肋骨骨折などは,除外診断後の診断で問題ない。
誰もが虫垂炎を真っ先に考える部位であり,まずは虫垂炎ありきで対応するが,虫垂炎が除外されたときの焦りようは鑑別疾患の不足に他ならない。
▶らしくない⇒虫垂炎は虫垂の位置によってもバリエーションがあるので,右下腹部痛ではない場合もある。また,下腹部痛では,婦人科,泌尿器科疾患も考えなくてはならず,当てが外れるとドツボにはまることもあるため,時に診断に難渋する。だからこそ,広い鑑別診断が必要である。
ずばり,左上腹部での急性腹症というのは,かなりレアな感じがするのではないだろうか?脾臓くらいしかないというイメージが強いため,脾臓疾患が否定されると「らしくない」になってしまいそうな感覚に陥りそうである。
▶らしくない⇒心臓が左側にあることを忘れてはならない。
もっぱら大腸疾患の宝庫のような部位であるが,持続痛などになると,「らしくない」感じになってしまう。
▶らしくない⇒虚血性腸炎などは下血も起こすので急性腹症としてイメージしやすいが,下血がなかったりすると,「らしくない」印象になる。症状出現の頻度や感度,特異度を押さえておく必要がある。
そのほか,腹部全体というときには,血管病変,消化管穿孔からの腹膜炎,絞扼性腸閉塞,nutcracker症候群,糖尿病性ケトアシドーシス,急性ポルフィリン症,IgA血管炎などを鑑別に挙げる必要がある。
無論,このような部位の分類がすべてではないし,実際には境目がはっきりしない場合もある。
左下腹部痛で肝胆膵疾患というのは,このアプローチ方法を超越したものになるが,なれの果ての腹膜炎や後腹膜出血といったこともありうる。いつもセオリー通りにいかないのが急性腹症として考え,「らしい」ときはそれでOK,しかし,「らしくない」ときには広めの鑑別診断を用いて応用していく姿勢が必要である。