外線で電話が掛かってきました。
「いつもお世話になっております。Aの次男ですが,最近の病状について教えて頂けますか?」
Aさんは1週間前に入院した脳梗塞の患者さんです。入院時には担当医である自分と主治医が,患者本人と,同居をしている長男夫婦に病状説明を行いました。次男は遠方に在住のはずで,入院後も来院しておらず,面識はありません。
きっと遠方で仕事も忙しく,思うように来院できず心配なのだろうと思い,受けた外線電話で入院からの経過と病状を詳細に説明しました。
しかし実はAさんは有名な小説家で,電話を掛けてきたのは次男の名を騙ったマスコミ関係者でした。Aさんの病状が記事になってしまい,大問題に。
この事例の対応には,3つ問題があります。
受けた電話では,相手が名乗った通りの本人かそうでないか,通常は判断できません。確認のためこちらから掛け直しが必要です。失礼のないように相手にお断りした上で,連絡先を確認していったん電話を切ります。この時点ではAさんが入院しているという事実についても,言及しないようにします(これも重要な個人情報です)。入院時に記入して頂いた家族連絡先と相違ないか確認し,電話を掛け直しましょう。
病状説明は,原則的には患者本人に行います。本人以外へ病状説明を行うことについて患者さんの許可がある場合は,キーパーソン(通常は家族の代表者)を設定します。患者さんが未成年の場合,意識障害や認知症で正常な判断ができない場合にも,キーパーソンの設定が必要となります。
この事例でのキーパーソンは長男でした。もしこちらから電話を掛け直し,間違いなく次男であることが確認できたとしても,患者さんが病状説明を許可している長男以外には病状を説明することはできません。このような場合には,丁寧に説明し,次男から患者本人かキーパーソンである長男に連絡して,病状を確認して頂くことになります。また,もし患者さんの許可があれば,次回の病状説明時に患者さん,長男と同席して頂く方法もあります。
面識のない相手に電話で込み入った内容を説明するのは,コミュニケーションの中でもかなり難易度が高くなります。たとえ相手がキーパーソンであっても,要件が急を要さないものであれば,電話説明より直接面談したほうが確実です。電話越しの音声のみのコミュニケーションは,誤解のもとです。面談での表情や動作,服装など,非言語的なコミュニケーションの効果と,その重要性を理解しましょう。もちろん,緊急を要する連絡や,既に信頼関係ができている相手への単純な要件の連絡であれば,話は別です。