「またミスった。お前は医師に向かない」と言い,後輩にあまり仕事をさせない先輩はいないだろうか。これは,減点法で後輩の行為を評価するために起こることで,人を育てる方法として適当ではない。
この方法では,評価される人は失敗を恐れて萎縮し,難しいことをやらなくなる。減点法は日本の悪しき伝統であるが,この方法がはびこっているため,経歴に傷をつけたくない人は全勝をめざす。そのため,リスクを冒せなくなり,結果がよいと予想されるものにしか手を出さなくなる。その結果,仕事は小さくまとまってしまい,進歩が極端に小さくなるのである。さらに,この評価法では,評価者は後輩の行為だけではなく人格まで否定してしまい,関係もぎくしゃくする。
後輩をいろいろなことにチャレンジさせるべきであるが,すべてが成功するわけではない。しかし,失敗しても必ず挽回のチャンスを与え,失敗した原因を考えさせ,次の機会に生かせるようにする。そして,次回成功したときは評価を上げる。評価法を減点法でなく,加点法にするのである。
本屋大賞を受賞している作家の百田尚樹氏が,太平洋戦争を描いた『永遠の0』の中で,日本は減点法で考えるために効果よりもリスク回避を選択し,欧米は加点法のためリスクを冒してでも効果のある方法をとったため戦果を挙げられたと述べている。
また加点法では,評価者は自分の尺度になかったものまで評価をする機会が出てくるため,こんな方法もあったのかといった風に指導医の尺度,つまり力量を広げられる利点もある。評価を加点法でという人がどんどん増えれば,日本もしめたものである。