30年前,私の研修医時代における神経診察の習得は,教授や部長が所見をとる姿を見て学ぶしかなかったように思います。教授がベッドサイドで患者さんの診察をする様子を食い入るように見ていたように思います。一度見ただけでは要領は得ず,後から書籍を読むわけですが,当時はイラストより文章での解説が多く,今ひとつイメージがわかず苦労した記憶があります。
本書も,第一線で活躍されるプライマリケア医の皆さんのお役に立てるようにと出版されてから5年が経ちました。第1版から,診察に少しでも参考にして頂けるよう,文章に加えてイラストを多く取り入れてきたつもりですが,神経診察は「動き」が多く含まれる身体診察です。今回の第3版では,この「動き」を直接皆さんに伝えるべく,付属の電子版でイラストや文章など本書の全内容に加えて動画を収載しており,診察手技のポイントをよりわかりやすく解説しています(電子版の詳細は巻末参照)。
今回の改訂で,最前線で活躍されているプライマリケア医や若手医師の皆さんに,より一層お役立て頂けることを期待して,本書の序文と致します。
第1版では,忙しい診療の中で神経疾患の鑑別診断を進める上で役に立つと思われるツールレスな神経診察の仕方と,患者さんを見たときのFirst Impressionをキーワード化する方法を書かせて頂きました。神経診察を,日常診療で使える“技”にすることを目的としました。今回の第2版では,第2章「First Impressionのキーワードから神経疾患を見破る」においては,「めまいがする」「手足が痺れる」の2項目を主に改訂させて頂き,新たに第4章として「脳梗塞簡単整理」を設けました。
「めまいがする」では,最近注目されている,神経診察で中枢性めまいと末梢性めまいを鑑別する感度の良い診察方法をつけ加えました。頭部MRIが必須である脳血管障害診療において,MRIより感度の優れた方法を紹介しています。めまいは頻度の高い主訴でありますが,診療所ではMRIを撮影することは不可能ですし,病院の外来においてもめまい患者さん全例にMRIを施行することは現実的ではありません。今回紹介した診察方法は,MRIに対して統計学的優位性を示しており,比較的簡単にできる診察で,まさに神経診察が“技”として活用できる方法かと思っています。
感覚障害の診断で最も重要な点は,障害される領域の理解だと考えております。「手足が痺れる」では,頻度の高い末梢神経障害の診断のポイントと,稀ではありますが知っておくと役に立つ,いくつかの疾患の感覚障害を図解しました。図を多くしたことで視覚的に理解しやすくなるよう工夫しています。
第4章「脳梗塞簡単整理」では,第1章「神経診察のABC」と簡単な脳解剖をもとに脳梗塞を病型診断し,クイズ形式で追体験して頂く構成です。Common Diseaseである脳梗塞の診断の一助にして頂ければと思っています。
今回の改訂で,最前線で活躍されているプライマリケア医や若手医師の皆さんに少しでもお役に立てることを期待して,本書の序文と致します。
「知ってはいるが,あまりやらないし,得意ではない」。そんな神経診察を学び直し,日常診療で使える“技”にすることを目的に本書を企図しました。中級者の先生の“技”をbrush upする目的でもお使い頂けると思います。
忙しい診療の中,神経疾患の鑑別診断を進める上で重要な点が2つあります。1つ目は,効率の良い神経診察の方法をマスターすることです。第1章では,5つのシチュエーションに分けて神経所見の取り方を解説しました。“神経診察では道具を使わなければならない”という壁を取り払えるよう,「1.坐位と立位で診察をすませる場合」ではツールレスに素早く神経所見のスクリーニングができることをめざしました。必要に応じて,「2.頭痛を訴える場合」「3.仰臥位をとれる場合,とる時間がある場合」「4.高次機能検査が必要な場合」「5.深部腱反射をとりたいとき」を加えていく形で,効率の良い神経診察が可能になるかと思います。
2つ目は,患者さんを見たときのFirst Impressionがどういった神経徴候を示唆するのかをキーワード化することです。たとえば,First Impressionが「1歩目が出ない」であればキーワードは「すくみ足」となり,その原因となる主な疾患をリストに挙げていくことで,鑑別診断にターゲットした問診と神経診察を加えることが可能になります。そこで第2章では,シーン別にFirst Impressionが意味する神経徴候をキーワード化し,その神経徴候をきたす疾患を頻度と緊急度に応じて挙げたリスト,そしてその疾患特異的な問診と神経診察を記載しています。
また,第3章では,新患患者さんだけでなく,継続して外来に訪れる常連の患者さんに潜んでいる神経疾患の見破り方について記載しました。common diseaseに隠れた神経疾患を早期に発見できることが,プライマリケア医の真骨頂でもあるかと思いますので,一読して頂ければと思います。
この本が,最前線で活躍されているプライマリケア医の皆さんに少しでもお役に立てることを期待して,本書の序文といたします。最後に長期にわたり,私の勝手気ままな意見に丁寧に対応して頂いた日本医事新報社の磯辺栄吉郎氏と編集スタッフの皆さまに,この場をお借りして深謝いたします。
謹 告
本書に記載されている事項に関しては,発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,著者・出版社は最善の努力を払っております。しかし,医学・医療は日進月歩であり,記載された内容が正確かつ完全であると保証するものではありません。したがって,実際,診断・治療等を行うにあたっては,読者ご自身で細心の注意を払われるようお願いいたします。
本書に記載されている事項が,その後の医学・医療の進歩により本書発行後に変更された場合,その診断法・治療法・医薬品・検査法・疾患への適応等による不測の事故に対して,著者ならびに出版社は,その責を負いかねますのでご了承下さい。